オリンピックへの道BACK NUMBER
「宇野昌磨のキャリアが凝縮されていた」記者の感慨…全日本選手権“6回目の優勝”偉業はなぜ? 語っていた自覚「目標とされる存在でありたい」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2023/12/25 17:32
全日本選手権で6度目の優勝を果たした宇野昌磨
その後の演技こそ、真骨頂だった。冒頭の4回転ループはステップアウトとなったが、それを引きずらない。続く4回転フリップを決める。その後は、今、自分が置かれている状況を冷静に把握しながら、予定していたジャンプの構成を変更しつつ、演技を完遂した。
「草太君、その前の選手たちはほんとうに素晴らしい演技をして。草太君は中国(中国杯)前ぐらいはずっとともに練習していたのでやっぱり感情がよけいに入る素晴らしい演技でしたし、『その次に滑る僕、大丈夫か』って思いました」
そう切り出した宇野は、その中での自身のパフォーマンスについて、このように振り返る。
「僕は最高の演技とはいきませんでしたけど、ほんとうにまさにベテランなんだなと、こういう中でも、自分の状態が別によくなくてもちゃんとやらなきゃいけないことを、的確に見極めてやることができたなと思います」
第一線で積み重ねてきたキャリアが凝縮されていた。
コーチ「私は昌磨の精神を尊敬しています」
真骨頂は、経験を重ねてきたからこその冷静な観察力や把握力、ジャンプの構成変更ばかりではない。
好演技が相次いだことで生じた場内の熱気や空気を、曲のスタートとともに自らに引き込んだことだ。NHK杯などでも示したこの表現にこそ、宇野の継続する、たしかな進化がある。
「今までなら後半に盛り上がるところがあったけれど、そこがない分、曲が難しい形になっています」
フリーの『Time lapse/Spiegel im Spiegel』にそう感じてきた。
だが宇野は苦にするどころか、静寂あるいは静謐とも思える曲の魅力を引き出し、場内にプログラムの世界を体現してみせた。今シーズン、テーマとしてきた表現力をいかんなく示した。
宇野を見守ってきたステファン・ランビエールコーチは称えた。
「とても感動しています。最高のレベルに達するには長い時間がかかります。そしてそのレベルを維持することはとても素晴らしいことです。私は昌磨の精神を尊敬しています」
「昌磨は完璧なスケーターです。彼は美しくて優雅で、素晴らしい技術を備えています。彼はスケーターであるだけでなく、美しいアーティストであり心の清らかな人間なのです」