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「勇大くんも来てくれるんじゃないかと」 東野有紗が明かす、渡辺勇大とのわたがしペア結成秘話…“余り者同士”の相性の良さは「奇跡ですね」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byL)Asami Enomoto、R)JIJI PRESS
posted2023/11/11 11:00
直近のアジア大会では銀メダルを獲得、来年のパリ五輪では金メダルへの期待もかかる東野有紗
説明できない“相性の良さ”「奇跡ですね」
試合の中で交わした言葉も「『ナイス!』くらいしかなかったんじゃないかな」。練習したわけではなく、試合前や試合中に意思疎通を積極的に図ったわけでもない。でも、結果を残せた。東野も要因を分析することは困難だという。
だからひとこと、こう表す。
「奇跡ですね」
説明はつかない。それでもたしかな感触があった。プレーが合う、相性のよさだった。
東野は富岡一中を卒業し、富岡高校に進む。シングルス、女子ダブルスでも大会に出場し、高校選抜の女子ダブルスでは、シングルスの日本代表として現在も活躍する大堀彩と組んで優勝したこともある。
1年後、渡辺が富岡高校に入学。渡辺と出場した国際大会は、中学生の頃に感じた感触を確信に変化させた。2014年の世界ジュニア選手権だ。東野は渡辺と出場し、銅メダルを獲得したのである。
「そのとき、初めてミックスダブルスで世界で戦っていきたいと思いました」
2012年のロンドン五輪に池田信太郎と潮田玲子が出場し、ミックスダブルスへの関心が高まったあとでもあった。
「池田さん、潮田さんはレールを作ってくれて、ミックスダブルスの自分たちもできるんだって思わせてくれていた存在だったので、ミックスダブルスで金を獲りたいなって思っていました」
高校卒業後も、東野は渡辺を誘い続けた
高校を卒業すると日本ユニシス(現BIPROGY)に入社する。
「タカマツさん(高橋礼華、松友美佐紀)だったり、栗原(文音)・篠谷(菜留)さんだったり、すごいメンバーがそろっている中で、こういう方々みたいになりたいと思って入りました」
一方で意識していたのはミックスダブルス――渡辺の存在だった。
「自分がこの場所で頑張っていたら勇大くんも来てくれるんじゃないかなと思っていました」
思っているだけにはとどまらなかった。
「1年間頑張って誘い続けました。どういう風に誘ったか覚えていないですけど、入ってほしい、みたいな感じで」
高校を卒業する前、渡辺と先々について深く話したことはなかったという。
「『またミックスしようね』くらいな感じだったかな。勇大くんは卒業生に向けて書くメッセージで『またミックスしましょう』みたいなのを書いてくれてました。お互い、軽くそんな感じであった程度で、本当にちゃんとやりたいなって考えて発信したのは入社して、自分からです」
やがて渡辺は日本ユニシス入社を決意する。その報告は――。
「覚えてないんですよ(笑)。あったかもしれないですけど」