プロ野球PRESSBACK NUMBER
中日のトラウマ“じつはイチロー3位指名が決定”していた…32年前、ドラフト会議で何が? 当時スカウトが明かす「地元のスターは必ず獲得」の発端
text by
中田宗男Muneo Nakata
photograph byJIJI PRESS
posted2023/10/21 11:02
中日はなぜ鈴木一朗を指名しなかったのか? 当時スカウトが明かす「舞台裏」
体は細いが軸がしっかりしていてすごいスイングをする選手。
それが鈴木一朗のビデオを見た私の印象だった。
「いいじゃないですか!」と言うと、「そうだろ?」と池田さんは少し得意げだった。
スカウト会議で池田さんは鈴木一朗を強く推した。私も素材として素晴らしいと思ったので後押しした。
「上手いこといくみたいよ」3位が濃厚だった
だいぶ時間が経ってから池田さんに「鈴木はどうなりましたか?」と尋ねると「上手いこといくみたいよ」ということだった。これで2位は日本生命の新谷、3位は愛工大名電高の鈴木一朗という指名順になるのだろうなと私は思った。
新谷ともう1人、担当地区からどうしても獲りたい選手がいた。それが渋谷高(大阪)の中村紀洋だった。中村を初めて見たのは1年の秋。バッティング練習の強烈なスイングが今も印象に残っている。打ち損じた打球でも強烈に真上に上がる。高校生でこんなにボールが上がった打球を見たことがなかった。
中村は翌年夏には私の母校・上宮高と大阪大会決勝で戦い、2年生ながら2本のホームランを打ってチームを甲子園に導いた、公立高に現れたヒーローだった。まともに勝負して抑えられるピッチャーは大阪にはいなかった。それくらい強烈なバッターだった。だからこの年のドラフトでは、「関西の高校生は中村だけ!」といってもいいくらい、中村に惚れ込んでいた。
3位は中村紀洋か、鈴木一朗か
2位か3位でないと獲れないと思っていたから、池田さんには申し訳ないが、本音を言えば3位は鈴木一朗ではなく中村でいって欲しいと思っていた。
スカウト会議で私は中村を推し続けたが、ドラフトが近づいてきた9月になって「脚力がない選手は獲れないよ」と岡田さんにはねつけられた。
「足は遅いですが打撃は強烈です。守備も肩があってスローイングも良いです」とそれでも推したが、岡田さんの反応は芳しくなかった。「脚力が……」というのだから、もう3位は鈴木一朗にいくことを決めたのだな。それであれば仕方がないと、このときは中村の指名は難しいと半ば諦めていた。