セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
金満サウジに“代表監督強奪された”窮地イタリア…“鎌田大地同僚で報酬110億円を蹴った”新主将インモービレ33歳、新指揮官のゲキとは
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byANSA/AFLO
posted2023/09/16 17:01
鎌田大地とハイタッチするインモービレ。サウジマネーの誘惑を断ったラツィオの頼れるキャプテンはアズーリの主将にも任命された
ナショナル・トレセンでの初会見では代表への憧れの原体験やユニフォームへの思いを語り、所信表明には謙虚さと築いてきたキャリアへの自負を込めた。
「私が代表にとって最高の監督かどうかはわからない。だが、私はスパレッティという男がベストを尽くすことを約束する」
食えない古坊主のような風貌の新監督は、30年以上の指導歴を誇る百戦錬磨の戦術家だ。“3日でチームを作れ”という無理難題にもできる限りの手を尽くした。
選手招集にあたっては、シーズン開幕間もない時期だけに、所属クラブでの出場時間が多くフィジカル・コンディションが出来上がっている者を優先した。
前監督の電撃辞任によって、選手たちは混乱と不安を抱えている。こういうときの説明はすっきり明快な方がいい。スパレッティは戦い方を明確に示した。
「最終ラインは4バックだ。現代のサッカーで大事なことは、多重プレスとプレーの組み立ての2つだけ。いいプレスができればボールはすぐに取り返せる。いい組み立てができれば、やりたいゲームができる」
基本布陣は前監督も多用した可変型4-3-3だが、スパレッティは昨季まで率いたナポリのように守備時にはサイドプレーヤーをずらして中盤を4枚にしたり、攻撃時には左右ウイングが同時に仕掛けるシンメトリー(左右対称形)アタックを試すと見られている。右サイドバックのDFディロレンツォや3トップの一角として起用濃厚なFWラスパドーリといったナポリ組がキーマンになるだろう。
新主将インモービレも「110億円提示」を断っていた
スパレッティは昨季スクデットを獲ったばかりの優勝監督だから説得力がちがう。前監督マンチーニの電撃辞任に揺れる選手たちに、代表に選ばれる重みと喜びをあらためて思い出せ、と訴えた。
「今の世の中では何でも手に入るし、何をしても許されてしまう。だが、思い出してほしい。代表のユニフォームを着ることができるのは本当に限られた、わずかな人間だけだ。諸君らはその栄誉を護れ。私の隣には(新しく代表団長に就いた)ブッフォンがいるが、他にもマッツォーラ、リベラ、リーバ、マルディーニ、バレージ、バッジョ、そしてヴィアッリ……歴代アッズーリの魂はつねに我々とともにある」
イタリア代表の新キャプテンには、ラツィオでも主将を務める33歳のFWチロ・インモービレが指名された。
所属クラブのチームメイトに日本代表MF鎌田大地が加わったこの夏、実はインモービレにもサウジアラビアの誘惑の手が及んでいた。現年俸の5倍近い2年総額7000万ユーロ(約110億円)を提示されたインモービレだったが、葛藤の末に誘いを断った。
「心がぐらついたよ。でも最終的にはここに残ることを決めた。やり残したことがあるから」
代表監督やトッププレーヤー引き抜きという未曾有の大ピンチに抗うアッズーリ。サッカー職人の国イタリアとセリエAの底力が問われている。それは各選手が超巨額オファーを受けるか、それとも慣れた地での生活を選ぶか――という人生の選択にも繋がるものだ。〈第3回へ続く〉