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なぜ崖っぷちでも「比江島タイム」が発動できた?…殊勲のヒーローが語った「0勝10敗、“悔しさ”の歴史」《バスケW杯ベネズエラ戦》
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byFIBA
posted2023/09/01 17:03
ベネズエラ戦でチーム最多の23得点を挙げた比江島慎。33歳のベテランが秘めた想いは…?
それを理解するためには、この試合でチームトップの23得点を挙げた比江島と、2位の21得点を挙げた渡邊との共通点を知らなければならない。
彼ら2人はいまのこのチームのなかで飛びぬけて「悔しい想い」を味わってきた選手である。
国際大会で味わった「屈辱」の数々
リオ五輪の世界最終予選、2019年の中国W杯、そして2021年の東京五輪という3つの国際大会を経験しているからだ。
3大会の成績は――0勝10敗。自分たちの勝利を信じて戦い、そのたびに涙を飲んできた。
その3大会のなかでも、現チームで彼ら2人しか経験していないのが7年前のリオ五輪の世界最終予選だ。結果だけを見れば、日本にとっては悲惨な大会だった。初戦でラトビアに48-88、2試合目はチェコに71-87で敗れ、あっけなく敗退が決まった。
当時、比江島はすでにエースとして、大学生だった渡邊は将来を担う選手として、ともにスタメンを張っていた。最終戦が終わったあと、渡邊はこう話していた。
「比江島さんの1対1はどのチームにも通用していましたし、僕らもそこに頼っていた部分がありました。僕は僕で、また、成長しないといけないと思っています」
その言葉通り、渡邊は7年かけてチームの大黒柱になった。では、比江島はどう思っていたのだろうか。以前、彼はこう語っていた。
「リオ五輪の最終予選が自分の中で1つの分岐点というか。五輪を身近に感じられたし、手の届くところまで来たかなと感じたので。ただ同時に世界との大きな差も、あの最終予選を経験してわかりました」
ベネズエラ戦のあと、この日のヒーローが静かに答えた言葉には、そんなこれまでの「歴史」が見え隠れしていた。
「惜しいところまで行っても勝ち切れないという経験を何回もしてきたので。今日、“慌てることなく”やれたのも、そういう経験をしてきたおかげかなと思います」