終焉のときは、突然訪れた。いつものように、マンツーマンでシャドーピッチングをしていたときのことだった。広岡が静かに口を開いた。

「よし、明日いくぞ」

　その瞬間、松岡は（あぁ、やっと終わった……）と安堵する。「空白の26日間」が、ようやく終わろうとしていた。そして、広岡はこんな言葉をつけ加えた。

「そう、それでいいんだ。そのままやれば、必ず勝てるぞ」

「空白の26日間」でものにした“感覚”

　松岡にとっての「復帰戦」は7月2日、ナゴヤ球場での中日ドラゴンズ戦となった。首位を快走するヤクルトは4連勝。チームに勢いが生まれつつある中での登板だ。27日ぶりの登板について言及する前に、まず問うたのは「この27日間で、一体何が変わったのか？」ということだった。松岡が振り返る。

「広岡さんの言葉として、“お前は軸が強いからちゃんとできる。お前にはそれだけの力がある”と、堀内さんを通じて言われていました。そして、“軸足で立ったときに、自分の体重が足の裏全体にグッと乗っているのが自分でわかる。わからなければダメなんだ”とも言われました。その当時は、ハッキリと自覚していたわけではないけど、真っ直ぐ立ったときにフラフラしないし、投げていて、“おっ”と思うこともありましたね」

広岡達朗と過ごした「空白の26日間」は決して無意味ではなかったという　©Yuki Suenaga

　目に見えて球速が上がったわけでもなく、新たな変化球を身につけたわけでもなかった。それでも、この日の松岡は中日打線を相手に、最終回にマーチンに18号ソロホームランを打たれた以外は完璧に抑えて完投。4対1の快勝で5勝目をマークしている。

「えっ、オレ完投しているの？　6回か、7回まで投げて降板したような記憶があるけど、そうか、完投したんだっけ。でも、この日は違いを感じなかったけど、ここから8月、9月と投げていくうちに、“あぁ、やっぱりどこか違うな”という感覚はあったよね。そして実際に、その感覚が成績に表れてきましたから」

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