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誹謗中傷に「走るの楽しんじゃいけないのかな」…区間16位で駅伝V逸、積水化学・森智香子が直面した“世界中が敵”という恐怖「黙らせるには…」 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byNanae Suzuki

posted2023/08/13 17:01

誹謗中傷に「走るの楽しんじゃいけないのかな」…区間16位で駅伝V逸、積水化学・森智香子が直面した“世界中が敵”という恐怖「黙らせるには…」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

「駅伝での優勝」を目標に2015年に積水化学に入社。競技生活を送る中で、2020年に直面したのが“ブレーキ”となってしまった駅伝の後にあった「誹謗中傷」だった

「誹謗中傷を黙らせるには、結果を出すしかないと思いました。自分のせいで負けたのは自覚していましたから、翌年は自分がやるしかないと。駅伝では、佐藤(早他伽)、卜部(蘭)、新谷(仁美)さんは、100%の力を出してくださった。私が5区の区間を埋めるのが優勝するために一番手っ取り早いし、一番の近道だなと思ったので、負けたことをバネにじゃないですけど、見返すという思いで1年頑張っていこうと思いました」

 絶対に見返す――強い思いを胸に秘め、厳しい練習に身を置きつつも笑顔で走ることはやめようとしなかった。

自分が変わって陸上を楽しめなくなるのはいや

「クイーンズ(駅伝)が終わってからは、自分の走りを見てもらうのが怖かったですし、結果が出るまではプレッシャーもあったんですが、批判のコメントに屈して自分が変わって陸上を楽しめなくなるのはいやでした。結果を出して自分のスタイルを認めてもらうしかないと思ったので、とにかく結果にこだわって走っていましたね」

 2021年のクイーンズ駅伝、森は1区で出走した。ライバルは、20年の覇者であるJP日本郵政グループで、1区は前年の5区で敗れた鈴木亜由子だった。

「いろんなめぐりあわせを感じましたね。その時は、やってやると思いました。当時は『切り替えた』と言っていましたけど、負けたクイーンズのことはずっと引きずっていました。そのレースを知る人からは、あの時に抜かれたヤツって見られていたと思うんですけど、それを覆すには同じレースで結果を出すしかない。いくらトラックで頑張っても同じ大会で結果を出さないと、そのイメージを払拭することはできないと思っていたので」

 森は、1区で9位とレースを作り、2区の卜部、3区の佐藤、5区の新谷にうまく繋ぎ、初優勝に貢献した。結果を出すと、SNSでのコメントは好意的なものが増えた。それでも依然として誹謗中傷の声は多くの応援の声にまぎれて、森の目に届く。

「もう、気にしなくなりました。それを気にし始めたらきりがないじゃないですか。そういうコメントを出す人のほとんどが自分の顔を隠して投げてくるんです。顔も見えない人たちの悪口を聞いていても意味がない。『また、言ってんなぁ』ぐらいの心持ちで聞き流しています」

 SNSでの経験は、森をまたひとつタフな人間に成長させてくれた。

 そうして森は引退を考えていた「30歳」のシーズンを迎える。<続く
#3に続く
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