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人気レスラー・上谷沙弥が左ヒジを脱臼して号泣…スターダム“真夏の女王決定戦”で何が起きたのか?「レフェリーは即座に試合を止めた」
posted2023/07/25 17:03
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
上谷沙弥は担架の上で号泣した。それは悔しさと激痛が同居した、悲壮な叫びだった。
上谷はリングを囲んだ照明のポールによじ登っていった。客席から「まだ登るの……?」という声が聞こえるほど、上谷は登った。そして、約5メートルの高さから眼下の中野たむめがけて飛んだ。いや、飛び降りた。それはまさに、プランチャ・スイシーダだった。だが、攻撃したはずの上谷が左ヒジを押さえて苦悶の表情を浮かべている。8分15秒、レフェリーは即座に試合をストップして、リングドクターが呼ばれた。上谷は泣いていた。
左ヒジを脱臼…負傷に至るまでに何があったのか
この事態に至るまでには伏線があった。7月23日、大田区総合体育館で開幕したスターダム『5★STAR GP』のメインイベント。リングを出て、花道からステージ上に移った殴り合いの攻防は派手なシーンを迎えていた。上谷を倒した中野が観客の視界から消えた。上谷をKOしたことに満足して中野が立ち去ったのかとも思った。その中野が再び姿を見せたのはステージの幕の上、というか2階にあたる部分だった。そこから、中野は上谷めがけて飛んだ。プランチャ・スイシーダでセコンドごとなぎ倒したのだ。
中野はさらに花道を走ってヒザを見舞おうとしたが、上谷は咄嗟にジャンプして、逆に中野を踏みつぶした。そして上谷は中野を場外に誘った。
しかし、危険と隣り合わせの大空中戦は、上谷の負傷(左ヒジの脱臼)によるレフェリーストップという痛恨の結果になってしまった。
1週間前の7月17日、札幌大会で上谷は中野の赤いベルトをなめるように見つめて言った。
「私がほしいベルトは、この赤いベルト。初戦、たむを倒して初優勝して、そして、中野たむの赤い時代は私が終わらせる」
それに中野は応えた。
「上谷、先走るね。たむはね、アンタよりもっとずっと先を見ているよ。まずは開幕戦、最高峰で最上級に狂った試合をしよう。不死鳥を、中野たむの情念地獄に溺れさせてあげる」
確かに狂った試合だったかもしれない。だが、中野の赤いベルトに大きな興味を示していた上谷の野望は、このアクシデントによってとん挫してしまった。