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大横綱・千代の富士の引退Xデー取材にマスコミが押し寄せ…“35歳、手負いのウルフ”が土俵人生の窮地で見せた「信じられない強さ」とは

posted2023/04/02 17:10

 
大横綱・千代の富士の引退Xデー取材にマスコミが押し寄せ…“35歳、手負いのウルフ”が土俵人生の窮地で見せた「信じられない強さ」とは<Number Web> photograph by Getty Images

人気と実力を兼ね備え、角界で初めて国民栄誉賞を授与された第58代横綱・千代の富士。本人の証言を交えて、稀代の名横綱の現役晩年に迫った

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荒井太郎

荒井太郎Taro Arai

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圧倒的な強さに狼のような鋭い眼光、そして美しく鍛え抜かれた肉体――引退から30年以上が過ぎた現在もなお、“伝説の横綱”として語り継がれる千代の富士。幕内最高優勝31回、通算1045勝をあげ国民栄誉賞も授与された大横綱は、貴花田(のちの貴乃花)ら新世代が台頭するなか、どんな思いで土俵を去ることを決めたのか。在りし日の本人の証言も交えながら、現役晩年から引退に至るまでのドラマに迫った。(全2回の1回目/後編へ)

 今年3月3日、車いすテニスの第一人者である国枝慎吾さんに、パラスポーツ界では史上初となる国民栄誉賞が授与されることが正式決定した。パラリンピックでは5大会連続出場で4個の金メダルを獲得。4大大会の優勝はシングル、ダブルス合わせて50回。パラリンピックと4大大会すべてを制覇する「生涯ゴールデンスラム」を達成するなど、前人未到の快挙を成し遂げた。

現役中に角界初の国民栄誉賞を受賞

 今から34年前、元号が昭和から平成に代わった元年9月29日、当時の相撲界の第一人者である横綱千代の富士も、角界では初となる国民栄誉賞を受賞した。受賞理由は通算勝ち星が、これまた前人未到の「967」に達したことによる。

 このとき優勝回数は史上2位(当時)の29回。昭和末期に打ち立てた53連勝は、昭和以降では不世出の横綱双葉山の69連勝に次ぐ偉業であり(当時)、すでに記録にも記憶にもその名を刻んでいた大横綱であったが、胸の内では忸怩たる思いを抱えていた。

「先人たちの横綱もいた中で、最多勝ち星の記録は平幕と十両を長く務めた人が持っていた。これは横綱が持つべき記録だろうという意識はあったよね」

 千代の富士が史上1位になるまでの通算最多勝記録の保持者は、前年の昭和63年初場所限りで引退した元小結大潮。40歳まで現役を務め、通算で小結1場所、平幕50場所、十両55場所在位しながら、コツコツと積み上げた勝ち星は964個。“ウルフ”と呼ばれた横綱は受賞直前の平成元年秋場所、初日からきれいに白星を並べ立て、13日目に巨砲を掬い投げで土俵に叩きつけると、無敗で29回目の優勝を決めるとともに通算勝ち星を965とし、大潮を抜いて歴代単独トップに立った。残り2日も連勝で7度目の全勝Ⅴも達成。国民栄誉賞に花を添えた。

【次ページ】 優勝32回の“大鵬超え”が迫るなか…土俵人生の窮地に

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