酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
〈大谷翔平が帽子かぶり〉WBCチェコ代表は「楽しそうな上に進化」していた…観戦3度目の筆者も感服「兼業選手の幸せな多様性」
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byCTK Photo/AFLO
posted2023/03/18 17:01
チェコ代表の投手ジェフ・バート。子供とともに東京ドームと野球を楽しむ姿は、日本のファンの心をつかんだ象徴とも言えよう
チェコの選手の多くは「本業」を持っている。内野手のヤクブ・ハイトマル、捕手のチェルヴェンカは営業職、外野手のマルシェ・ドゥボヴィは教師、投手のルカーシュ・フロウフは電力会社勤務、ダヴィッド・メーガンは出版社広報だ。しかしソガードは野球選手、それも正真正銘の「メジャーリーガー」だ。
田中将大、黒田博樹、前田健太からも安打を
2010年にアスレチックスでメジャーデビューしてから、ユーティリティプレイヤーとして昨年まで815試合に出場。捕手を除くすべてのポジションを守り、投手としても5試合に登板。こういう選手をMLBでは「スイスアーミーナイフ」と言うが、眼鏡をかけた知的な風貌が一部に熱狂的な人気を博していた。このたび自身のルーツがあるチェコに帰化したことで、WBCに出場することができた。
なお田中将大とは8打数3安打1本塁打、黒田博樹は6打数2安打、前田健太にも8打数3安打と日本人投手を得意としている。
ソガードは2番二塁手で全4試合に出場、16打数7安打1打点1盗塁、打率.438とチーム一の成績を残した。特に第4戦のオーストラリア戦の8回、1-6と負けている局面、ソガードは2死走者一塁で三塁線にプッシュバントを仕掛け、見事成功させた。野球を知り尽くしたメジャーリーガーならではのスーパープレイだった。
“ファイアマン”の消防士が見せた粘りの投球
3月13日のオーストラリア戦は勝てば準々決勝進出の可能性が出てくる重要な試合となった。
ハジム監督は、3月10日の試合で49球で降板させたマルティン・シュナイダーを先発させた。彼の本職は消防士。ヨーロッパ球界では有名で、救援で火消しをして「ファイアマン」と呼ばれることもある。
球速は150km/hに届かないが、緩急をつけた丁寧な投球が持ち味。この試合では、2番アレックス・ホールに先制本塁打を打たれたものの6回1死、制限いっぱいの68球を投げて自責点1で降板した。一塁側に戻るシュナイダーにベンチだけでなく、客席からも大きな拍手が湧き起こった。中に選手の家族もいただろうが、拍手を送ったのはほとんどが日本人だった。あの日本戦以来、夜の試合だけでなく昼のチェコ戦も「お目当て」になった日本人が、チェコの奮闘を讃えたのだ。
後続の投手が打ち込まれ、チェコは3-8で敗退が決まったが、ベンチ前に並ぶチェコナインには再び大きな拍手が起こった。