酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
〈大谷翔平が帽子かぶり〉WBCチェコ代表は「楽しそうな上に進化」していた…観戦3度目の筆者も感服「兼業選手の幸せな多様性」
posted2023/03/18 17:01
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
CTK Photo/AFLO
WBC東京プールの全日程が終わった。全試合を観ていろんな感慨を抱いたが、新鮮な発見だったのは「チェコ共和国の野球が好きになった」ことだ。筆者だけでなく、かなり多くの日本の野球ファンがそうなったのではないか。
若き日の鈴木誠也や近藤、高校時代の清宮も対戦
筆者が「チェコ野球代表」を見るのは3回目だ。
1度目は2014年、台湾で行われた「第1回21U野球ワールドカップ」。チェコは欧州代表で出場。イタリア、メキシコに勝ち2勝3敗。日本には0-15で敗れた。この大会に日本からは鈴木誠也や近藤健介、牧原大成などが出場していた。チェコの試合はメインの台中洲際棒球場ではなく、老朽化した体育署台中棒球場と言う小さな球場で行われることが多く、関係者以外のお客はほとんどいなかった。
2度目は2015年の「第27回 WBSC U-18 ベースボールワールドカップ」。チェコは8月31日、大阪、舞洲球場での日本戦で、甲子園を戦った直後のオコエ瑠偉、森下暢仁、まだ1年生だった清宮幸太郎などに0-15で敗れた。これも含めてファーストラウンド5戦全敗。メンバーには今回のWBCにも出場している内野手のヴォイチェフ・メンシクの名前がある。どちらの試合でもスタンドには選手の家族が駆けつけていたが、選手も家族も「楽しそう」で、まなじり決して試合に臨む日本とは対照的だった。
監督の采配から見る「チェコ野球の進化」とは
今回のチェコ代表も「楽しそう」なのは変わらないが、当時と比べても明らかに進化していた。
筆者が感服したのは、51歳のパベル・ハジム監督の采配だ。チェコ国内リーグの名外野手で、チェコ野球のレベルを引き上げることに尽力したが、本職は神経外科医である。
理知的な采配が光ったのは、3月10日の中国戦。ハジム監督は先発のダニエル・パディサック、2番手のマルティン・シュナイダーをいずれも「49球」で降板させた。今回のWBCの1次ラウンドの球数制限が「50球以上を投げた場合は中4日以上、30球以上は中1日以上の登板間隔を空ける」となっていることをはっきり意識していたからだ。
この大会、中国や韓国は、打ち込まれると小刻みに投手を交代させた。それは試合時間が長くなった一因にもなったが、チェコは劣勢でも優勢でも、投手の適性を見てマウンドに上げているという印象があった。中国戦、チェコは4投手の継投で終盤まで4-5と粘りを見せ、最終回にマルティン・ムジクのホームランなどで大逆転。8対5でWBC本戦初勝利を挙げた。