酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
〈大谷翔平が帽子かぶり〉WBCチェコ代表は「楽しそうな上に進化」していた…観戦3度目の筆者も感服「兼業選手の幸せな多様性」
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byCTK Photo/AFLO
posted2023/03/18 17:01
チェコ代表の投手ジェフ・バート。子供とともに東京ドームと野球を楽しむ姿は、日本のファンの心をつかんだ象徴とも言えよう
今大会は1日ごとの通し券となっている。夜の日本戦がお目当てで、昼の試合を「ついでに見た」ファンが多かったと思うが、そんな日本のファンも無印のチェコの奮闘に驚いたはずだ。
日本戦で先発登板したサトリアの“全球チェンジアップ”
ハジム監督が恐るべき手腕を発揮したのが、翌11日の日本戦だ。チェコの主要な投手については、チェコ代表と何度も対戦しているオーストリア代表の坂梨広幸監督から予備知識を仕入れていた。しかし、この日本-チェコ戦の試合前に、外野でウォームアップをし始めたのは、そのリストにはないオンドレイ・サトリアという投手だった。1997年生まれの26歳で、175cmと決して大柄ではない。まるで漫画「ダーリンは外国人」に出てきそうなひげを蓄えて、捕手のマルティン・チェルベンカとゆっくりキャッチボール。本当に彼が先発投手なのだろうか? と感じたほどだ。
一方、日本の先発は190cmの佐々木朗希、160km/h超の剛速球の前に、チェコ打線はひとたまりもないかと思えたが――1回、2死から3番マレク・クルップが左翼に二塁打、続くチェルベンカの遊ゴロを中野拓夢が一塁に悪送球して先制の1点が入る。
その裏、マウンドに上がったサトリアが投げたのは球速125km/h前後。“嘘だろ?”と言いたくなるような遅球だった。変化球はさらに遅くて110km/h前後。しかしこのサトリアの前にヌートバー、近藤健介が連続三振、大谷翔平が一ゴロに倒れる。公式サイトによれば、サトリアの球は「チェンジアップ」となっていた。チェンジアップとは、速球の軌道で投げられる「遅い変化球」であって、速球を見せ球にしてこそ生きるはずだが、サトリアは「すべてがチェンジアップ」なのだ。
サトリアは3回には大谷翔平を空振りの三振に切って取り、大谷が渋い表情を浮かべたのが印象的だった。とはいえさすがに侍打線も徐々に適応しだし、最終的にはサトリアは3回自責点3で負け投手になるのだが――史上最強とされる侍打線を、一時的にせよ慌てさせたハジム監督の手腕は素晴らしい。チェコにも150km/h程度を投げる投手は何人かいるものの、そのレベルで日本を抑えるのは難しいと判断して遅球投手サトリアを起用したのだろう。
ちなみにサトリアはチェコ国営電力会社に勤務するサラリーマンだ。
日本戦で心をつかみ、かつての大リーガーも奮闘
日本戦での予想以上の奮闘は日本ファンの心に残った。そしてそれ以上に、試合終了後、三塁側に集結したチェコのナインが、手を高く上げて日本チームを称賛する拍手を送ったことが大きな話題となった。チェコは「相手チームをリスペクトする」と言うスポーツマンシップの基本を示した。その中で「侍ジャパンが勝利すること」にフォーカスしていた日本のファンには、一陣の爽風のような印象を与えた。それもあって日本戦以降、チェコの試合に注目するファンが増えたのは間違いないだろう。
チェコでもう一人、強く印象に残ったのがエリック・ソガードである。