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「100万円って、今でも大きな金額」「決算書詳細をライバルに公開」宇都宮市と“日本一の自転車タウン”に成長したチーム運営がスゴい
text by
赤坂英一Eiichi Akasaka
photograph byJAPAN CUP CYCLE ROAD RACE 2022
posted2022/10/26 17:00
宇都宮市で3年ぶりに開催されたジャパンカップサイクルロードレース。なぜ栃木県の県庁所在地は自転車タウンになったのか
「ブラーゼンを運営してる若杉(厚仁・運営会社NASPO株式会社代表取締役)は、もともとブリッツェンの選手だったんです。彼とエースだった清水良行、それにトップカテゴリーでも走れる下部組織の若手4人を那須に送り込みました。行ってこーい! と」
球団同士の選手の貸し借りなら、レンタル移籍の形でJリーグでも行われている。プロ野球でもNPBの球団が独立リーグに選手を派遣している例がある。
しかし、廣瀬の「協力」ぶりは、そうした既存のプロスポーツの常識をはるかに超えていた。チームを組織するノウハウを持たない那須や広島のため、契約書のひな形や決算書の中身まで見せたというのだ。社会的地位の確立された他のプロスポーツで、決算書を他球団の関係者の目に触れさせれば、背任行為と見なされ、法的問題にもなりかねない。
「確かに、Jリーグだったら、ここまで他のチームに協力しないでしょう。でも、僕たちはチーム同士が力を合わせて、これからプロスポーツとしての魅力を作り、社会に伝えていかなくちゃいけません。そのためにも、今はチーム同士で信頼関係を築くことが必要なんです。お互いにライバル意識を持ったり、足の引っ張り合いをしてる段階じゃない。自転車はまだまだ、これからなんだから」
こうした地域密着型のチームとリーグは、自転車ロードレースの本場・ヨーロッパには存在しない。JリーグやNPBに倣ったJCLの創立は日本ならではの試みであり、世界的にも注目すべき挑戦と言っていいだろう。
目標は「世界一の地域貢献を行うプロスポーツチーム」
宇都宮ブリッツェンの草創期からブラッキー中島と取り組んできた子供向けの自転車安全教室も、ここにきて予想外の成果を挙げている。廣瀬は改めてこう強調した。
「エースの増田をはじめブリッツェンの選手が1~2名、必ず学校を訪れて安全な自転車の乗り方を教えています。年間5000人ぐらいの子供が参加していて、累計で約6万7000人になるのかな。ブリッツェンを立ち上げた10年以上前に僕たちが教えた子が、今ではJCLの選手になって走ってるんですよ」
究極の目標は、ブリッツェンを「世界一の地域貢献を行うプロスポーツチーム」にすること。そうした活動を継続して地道に足元を固める一方、廣瀬は片山とともに、また新たに壮大な目標を掲げた。
世界最高峰の自転車レース、ツール・ド・フランスに参戦し、日本人選手がマイヨジョーヌ(チャンピオンジャージ)を着るための新チームを片山が立ち上げる。廣瀬はそこに、手塩にかけて育て上げたブリッツェンの選手たちを送り込むことを決断したのだ。
<後編につづく>
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