キッドを意識することで、AZMはレスラーとしての自我を強くした。そうなると、自分が子供として扱われていることに納得できなくなる。

「キッドとは、大人たちの中で2人で頑張ってきたという感覚も強いです。試合でも練習でもナメられたくなかった。人一倍頑張ったしカッコつけてましたね。“こんだけできるんだぞ、ドヤ！”って。道場では、まだ子供だから筋トレの回数も少なくていいよって言われるわけですよ。それが気に入らなかった。“いやできるし”って。受身でもなんでもそう。“子供だからまだできないよね”という扱いが嫌で。

　確かに体は小さいですけど、動きとか体力が大人たちに劣るとは思ってなかった。プロとしての自覚をもってやってました。それはキッドも同じだと思います」

同世代のライバルとして互いを意識してきたAZMとキッド（2016年）　©Essei Hara

長い下積み時代の思い出

　いま思うとトガってましたね、とAZMは笑う。ただ、子供としてプロレスに関わった期間が貴重なものだったとも思っているそうだ。

「プロテストに合格してからも試合するまで2年かかったし、それは下積みが長かったということ。その期間にマット運動だったり受身だったり、基礎をたっぷり練習できましたね。それを含めて風香さんには凄く感謝してます」

　最初はロープワークも「ひたすら走ってるだけ」だったそうだ。体重が軽いからロープの反動が使えなかった。

「ロープの反動で勢いをつけることができた時は“こんな便利なものがあっていいのか”って（笑）。最初に反動なしで動いていたぶん、今も走るのが得意なのかもしれない」

「相手が得意なことを受け止めた上で勝ちたい」

　現在、AZMはハイスピード王座を7度防衛。2度目の戴冠を果たした今年2月のキッド戦は、海外でも高く評価された。スピーディーでテクニカルな選手たちが争うタイトルの象徴がAZMだと言っていい。リング上どころか場外、会場全体を走り回り、飛び、予想外の動きで対戦相手を翻弄、観客を魅了する。子供どころか、今や名王者だ。

「タイトルマッチで意識してるのは、ハイスピードという枠の中でも選手それぞれスタイルが違うということですね。動きまくるというハイスピードもあるし、駿河メイちゃんは奇想天外なことをしてくるタイプ。飛ぶのが得意な人もいるしグラウンドのハイスピードもある」

得意技ダイビング・フットスタンプ。長い距離を見事に降下する　©Norihiro Hashimoto

　メイとの防衛戦は、他団体所属のチャレンジャーがスターダムのファンを虜にする“お披露目”のような試合だった。テクラ戦では、SNSで相手が蹴りの練習をしているのを知りAZMもシーザージム新小岩で打撃のトレーニング。テクラの蹴りを丁寧にディフェンスしていた。

「私はチャンピオンなので、相手が得意なことを受け止めた上で勝ちたいんですよ」

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