将棋PRESSBACK NUMBER
「真剣師のプロ希望に賛否両論」田丸昇九段が見た“新宿の殺し屋”伝説…羽生善治9歳が記録係、A級棋士との“事件”が起きた対局とは
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byKyodo News
posted2022/08/30 11:00
「真剣師」として将棋界に衝撃を与えた小池重明。棋士視点から見て、どのような人物だったのか
指し込みとは、勝ち負けによって次の対局の手合いが変わること。第1番は森の角落ちで、森が勝てば飛車落ち、負ければ香落ちの手合いになる。負けた方が悔しさや焦りから、将棋が乱れてしまうことになりがちだ。
かなり過激な企画だが、森は「今までこういう勝負はなかったので、面白いと思って引き受けました」と語った。
小池応援団が喜び合った「事件」とは
写真(※『将棋ジャーナル』より転載)は、第1番の対局光景(左が小池)。ともに真剣な表情だ。
ADVERTISEMENT
第1番の角落ち戦は、森が逆転負けした。第2番の香落ち戦は、小池が快勝した。両者の平手戦がついに実現した。
第2番の終局後、森が1時間の休憩を断ると、小池も同意した。第3番がすぐに始まった。森のそのときの心境は分からないが、連敗で生じた動揺を引きずったまま対局に臨んだ。
私は当日、公式戦の対局で将棋会館にいた。森ー小池の対局室をのぞくと、ただならぬ緊張感が漂っていた。
第3番の平手戦は、激闘が繰り広げられていた。終盤で森の勝ち筋になったが決め手を逃し、とうとう「事件」が起きてしまった。
2図の局面(下側の先手が小池、上側の後手が森)は、小池の▲3三角が寄せの好手。飛車を取る△1六歩は▲2二成香で詰み。△3三同銀は▲1五飛と活用して寄り筋。実戦は△2一玉▲2四角成△1六歩▲1三桂打と進み、以下は即詰みとなる。
小池は165手に及ぶ長手数の激闘を制して、A級八段の森に勝った。小池が勝った瞬間、小池応援団の若者たちは声を出して喜び合った。当の小池は、森への配慮で押し黙ったままだった。
写真(※『将棋ジャーナル』より転載)は、終局後の光景。右から2人目は、小池の支援者の関則可。
多額の借金を抱えた小池がついに見据えた“プロの道”
小池はプロ棋士キラーとして、ますます名を馳せた。ただ現実には多額の借金を抱え、定職のない「浮草生活」を送っていた。やがて、人生の大部分を費やして得た将棋の実力を、プロ棋界で試してみたいと思うようになった。以前から世話になっていたベテラン棋士の松田茂役九段に相談してみた。
1982年11月、小池は新幹線の車内で将棋連盟会長の大山康晴十五世名人と偶然に会った。プロ入りの希望をおずおずと申し出ると、大山は小池の特異な才能を知っていたのか、「師匠を立てて連盟に文書で申し込むように」と言われたという。
その後、松田九段が小池の師匠となり、大山と話し合ったようだ。