甲子園の風BACK NUMBER
「失敗した球児を責めない」「継投で育成と勝利の両立」仙台育英・須江監督、国学院栃木・柄目監督39歳は“高校野球の定石”を覆した
posted2022/08/28 11:01
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Hideki Sugiyama
育成と勝利――高校野球界で対極にあるとみられた2つのゴールは両立できる可能性を示した。仙台育英が東北勢初優勝を果たして夏の甲子園は、新たな可能性を感じさせた。
一塁側アルプスの前で、仙台育英の須江航監督(39)が両手を広げて宙に舞う。一度、二度、三度。笑顔の選手たちに胴上げされ、少しずつ実感が湧いてくる。
「本当に歴史が変わったのかな、変わったんだなと不思議な気持ちでした」
目標をかなえるためには、甲子園で通用する投手が…
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東北の高校としては春夏合わせて甲子園で13回目の決勝戦。長年閉ざされていた扉を第104回大会で、ついにこじ開けた。同時に、高校野球の固定観念やイメージが大きく変えた。
仙台育英は5人の投手をバランス良く起用して、頂点に立った。5試合全てが継投。今大会の投球数の合計は、下関国際との決勝戦で7回1失点と好投した斎藤蓉投手の213球が最も多い。1週間で500球の球数制限とは無縁だった。
複数の投手による継投は、須江監督が1年間かけて作り上げた。昨夏の宮城大会4回戦で敗退してから「目標をかなえるためには、甲子園で通用する投手が4、5人必要」と投手の育成に重点を置いた。その意図を、こう説明する。
「野球はコンタクトスポーツなので、慣れが非常に重要です。打撃は率が低いので、投手に慣れる前に変えることが大事。1年を通して投手陣が切磋琢磨して、最終的に色が違う、特徴のある投手を揃えることができました」
「1人のエースにおんぶに抱っこよりも、質が上がります」
打者は打席で初めて目にする投球を捉えるのは難しい。特に仙台育英は左投手3人、右投手2人の5人全員が、140キロを超える直球に複数の変化球を組み合わせる。1、2打席で攻略するのは難易度が高く、分析や対策を分散させる効果もある。甲子園で勝つためのチーム作りに成功した須江監督。ただ、複数投手の育成には、もう1つ重要な目的があった。
「私たちは育成と勝利の両方を獲得したいと思っています。その中で、継投は外せない策です。今後も続けていきます。多くの投手が希望を持てますし、1人のエースにおんぶに抱っこよりも、チームとして質が上がります」
指揮官がチーム作りの中心に「継投」を置くことで、より多くの投手がマウンドに立つチャンスを得る。個々のモチベーションが上がり、結果的にチーム力の底上げにつながる。