甲子園の風BACK NUMBER
あの広陵がまさか…名将・中井哲之監督が語っていた“優勝候補が恐れるモノ”「広陵に負けたらしょうがない、と満足する高校もある。逆に…」
text by
元永知宏Tomohiro Motonaga
photograph bySports Graphic Number
posted2022/07/21 11:02
あの広陵がまさか…名将・中井監督がかつて語っていた“強豪校が最も恐れるもの”とは?
「僕は、失敗したあと続けてバントのサインを出すことができなかったんです。そのままバントさせとけば、ワンアウト二、三塁になってチャンスが広がっとったでしょう。三番を任せたんなら、真鍋を信頼して初球からフルスイングをさせればよかった」
しかし、中井監督が選択したのはどちらでもなかった。
「バントに失敗したあとに『打て!』のサインを出した。そのことに後悔が残りました。僕は試合後に泣きながら、選手たち、特に3年生に謝りました」
「おまえらは堂々としとけよ。負けた原因は中井じゃけ」
翌日、新チームがスタートしたが、練習開始前に選手全員、3年生も集め、改めて頭を下げた。
「その夜は興奮して、采配が頭から離れなくて、眠れなかったんです。自分が謝らんとスタートできんと思いました。『昨日の試合は俺の采配ミスなんじゃ。俺が監督じゃなかったら、勝っとる。俺の采配ミスで負けたんじゃけ、おまえらは堂々としとけよ。負けた原因は中井じゃけ』と言いましたよ」
勝てば監督の手柄、負ければミスの責任を選手に負わせる指導者もなかにはいるが、中井監督は違った。バントでランナーを送れなかった選手も、四番の働きができなかった選手も責めることはない。
「うまくいかなかった時、いつも、自分に矢印が向くんですね。何が悪かったんじゃろと思う」
だから、最後に口に出るのは「負けたのは監督の責任」という言葉だ。
「後手に回ると焦ってしまい、足をすくわれる」
中井監督から以前聞いた言葉が甦る。
「最近は、『広陵に負けたらしょうがない』と、それで満足する高校もある。逆に、負けると腹をくくって覚悟を決めてかかってきて、思わぬ力を発揮するところもある。こちらが後手に回ると焦ってしまい、足をすくわれることもあります」
今回は英数学館にリードを奪われ、攻めても攻めても追いつくことができず、最後までペースを奪い返せなかった。
早すぎる夏の敗戦、中井監督は選手たちにどんな言葉を送ったのか?
常々、「意味のない経験はない」と語る中井監督はこの敗北から何を学んだのか?
“最後のバッター”真鍋慧を中心とする新チームが今日から始動する。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。