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羽生結弦の“ある行動”で記者とカメラマンが笑顔に…現地で見た、決意表明会見の“テレビ中継には映らなかった真実”「困ったような笑顔で…」
posted2022/07/20 11:24
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
競技人生は永遠に続けられるわけではない。誰もがいつか、終止符を打つ日を迎える。
稀代のフィギュアスケーターにも、その日は、やってきた。
しかしそれを告げる記者会見は、今まで目にしてきたさまざまな競技の、どのアスリートのときとも、どこか違っていた。
7月19日、羽生結弦は長きにわたった競技生活を終え、プロの世界へ進んでいくことを発表した。
開場はるか前から多くのメディアが待機
記者会見は午後5時の開始を予定していた。会見場のオープンはその1時間前の午後4時。だがそれよりもはるか前、少なくとも30、40分前にはほとんどのメディアが受付の前に待機し、開場するのを待ち受けていた。前日に配信されたリリースには「決意表明の場として」の会見であることが記されていた。それぞれに思いを巡らしただろう、ただ、いかなる内容であれそれを見届けたい、耳を傾けたいという熱意の表れのようでもあった。
新型コロナウイルスの影響下、席と席は間隔をとり、前後の席は見やすさを考慮してだろうか、ずらして配置されている。取材者の数自体も、相当絞っていたようだ。テレビ、新聞、出版社系、フォトグラファーあわせて150名前後だろうか。会場の後方には15のテレビカメラの三脚が並ぶ。
「こんにちは。羽生結弦です」
時間は刻々と近づく。BGMがやみ、午後5時、司会者の言葉のあと、羽生は下手から壇上に姿を現した。スーツにネクタイを締める羽生は、深々と頭を下げた。
「こんにちは。羽生結弦です」
第一声、そう話したあとに感謝の言葉を述べた羽生は語った。
「まだまだ未熟な自分ですけれども、プロのアスリートとしてスケートを続けていくことを決意いたしました」
フィギュアスケート界では、競技に打ち込むスケーターと、プロとで大きく二分される。プロスケーターは公式の競技の大会に出場することはない。すなわち、競技から退くことを意味していた――いや、そうではなかった。