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「13歳までレースは絶対許してくれなかった」ジュリアーノ・アレジ22歳が明かす“ジャン・アレジ&後藤久美子の教え”
text by
大串信Makoto Ogushi
photograph byAsami Enomoto
posted2022/07/16 11:00
昨年から日本を拠点にする注目のレーシングドライバー、ジュリアーノ・アレジ22歳。父は元1ドライバーのジャン・アレジ、母は女優の後藤久美子だ
こうした両親の教えは、フランス人と日本人のハーフとしてフランスのアビニョンに生まれたジュリアーノを国際人に育てた。
「生まれてすぐスイスに引っ越して学校に通いました。でも、毎週末ほとんどアビニョンに行って、家族に会っていました。お父さんは時々イタリア語も混じるけどベースはフランス語。お母さんは日本語と英語、フランス語もちょっと。お母さんは僕には80%日本語、20%は英語。日本語を覚えてほしかったみたい。だけど僕の言葉はもうほんとにバラバラで、フランス語と英語と日本語、そのとき一番簡単な言葉を考えないで選んで使っていた。ただ、日本語はお母さんとだけだから、まだちょっと難しいかな(笑)」
ドライバーの若年化「やっぱり始めるのが早すぎる」
教育を通して人間形成を優先する一方、父アレジにはジュリアーノとモータースポーツに関しては思いがあったようだ。近年、世界的にモータースポーツ選手の若年齢化が進んでいる。日本でも、物心ついた頃にはキッズカートと呼ばれる小型レーシングカートに乗り始めて実戦経験を積み、13歳で正式に全日本カート選手権に出走する資格を得て16歳で限定Aライセンスを取得し4輪レースにデビューするという英才教育が珍しくなくなった。
だが今、父アレジは、折に触れレーシングドライバーの若年齢化に対する批判を公言している。「私の時代、レーシングカーを運転するには、18歳以上になって運転免許証を取得する必要があった。これは理にかなっている。現代のように16歳になる前に時速200kmをはるかに超えるレーシングカーのハンドルを握るのは不自然だ」と、父アレジはあるインタビューに答えている。
ジュリアーノ自身も、幼いうちからモータースポーツ活動をする現代の風潮は「良くない」と断言する。
「子供のときからレースをやっている子供たちは、お父さんやお母さんがやってほしいから始めているんです。子供自身が『僕、やりたい』と言い出すことはほとんどない。これは良くないと思う。そういう子供がレースを始めたら、家族やメカニックから、『なぜもっと遅くブレーキしないの』、『なぜここでオーバーテイクしないの』、『なぜここで相手にオーバーテイクされたの』、『なぜここでブロックしないの』と言われ続けて、遊びがストレスになってしまう。モータースポーツは元々楽しいアクティビティで、ストレスは感じないはずなのに。
今、カートコースに行くと、ヘルメットが身体より大きいような、ちっちゃい子供たちがいっぱい走っていて、見た目はもちろん可愛いんだけど、やっぱり始めるのが早すぎる。僕はあまり良くないと思う」
やっと認められたけど「父はレースにすごく厳しかった」
もちろん両親は息子がモータースポーツに触れることに絶対的に反対していたわけではなく、ジュリアーノが13歳になる頃、ようやくジュリアーノにレーシングカートを与えてモータースポーツへの入門を許している。だが、一旦モータースポーツの扉を開けると、父アレジはジュリアーノを甘やかそうとはしなかった。