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《水島マンガの野球予言》大谷翔平と佐々木朗希の160キロ超え最速記録は、水島マンガの最速王がピタリ同じ速度で投げていた!
text by
オグマナオトNaoto Oguma
photograph byKiichi Matsumoto / Getty Images
posted2022/06/10 06:02
現時点での最速記録は佐々木朗希(左)が164キロ、大谷翔平は165キロ。夢の167キロにはどちらが先に到達するか
なお、藤村甲子園の165キロは、実際にその投球シーンは描かれていない。『大甲子園』の序盤、甲子園球場に貼られたポスターにある「男・藤村甲子園 壮絶に散った天才投手 165」の文字。そして、そのポスターを見た記者の「一年目32勝 二年目33勝 そして三年目の開幕の第一球で散っていったんやな 165キロを記録したその初球 藤村は太く短く そして雄々しい野球人生を終えた……」というセリフからのみ推察できる。「剛球一直線」のキャッチフレーズに偽りなしだ(※連載モノでは藤村甲子園が最速だが、短編では『平成野球草子』において藤村大五郎というキャラクターも同じ165キロを計測している)。
山田太郎が引き出した高校最速記録
一方、高校球界最速は「球けがれなく道けわし」の中西球道。球速140キロ台でも「快速投手」と呼ばれた時代に「163キロ」を投げたのだから、いかに球道のストレートが頭抜けているかがわかるというものだ。
それでも、球道ならば160キロは投げそうだ、という納得感があるのは、野球大河ドラマ『球道くん』において、幼少期からの成長ぶりを丹念に描いたから。そして、投げた相手が高校球界最強バッター・明訓の山田太郎だった、というのも大きなポイントだ。
最速記録が生まれた舞台は、『大甲子園』における夏の甲子園準決勝、引き分け再試合の7イニング目。前日にたったひとりで延長18回を投げ抜き、4点を取られたものの明訓打線を相手に30奪三振。それでも球道は連戦の疲れを見せず、山田に対してだけは160キロを連発したうえでの163キロ。ところが、山田はこの高校野球最速の球をジャストミートし、弾丸ライナーで突き刺さる決勝ホームラン。最良の好敵手同士だからこそ、互いが最高のパフォーマンスを見せた、という好例だろう。
藤村甲子園と中西球道。このふたりに共通するのは、投げるシーンにおいて「うおおぉぉぉ」という、うるさ過ぎる擬音とともに描かれる点だ。この擬音があるからこそ球が速く感じる効果があり、ハエが止まる岩田鉄五郎の超遅球での擬音「にょほほほほ」とはあまりにも対照的。手塚治虫は静寂の擬音「シーン」を生み出したといわれるが、水島新司はその真逆のうるさい擬音を生み出した、と言っていいだろう。