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「悪しき前例になる」ウィンブルドンのロシア選手出場禁止にテニス界が猛抗議する理由…30年前、世界が危惧した“幻の優勝パーティー”とは
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2022/04/28 11:02
4月末のセルビアオープン決勝でジョコビッチを倒したロシア人選手のルブレフ。ウィンブルドンの決定を「完全な差別」と一蹴している
70年代初めに相次いで発足した男子プロテニス協会(ATP)と女子テニス協会(WTA)は、今回のウィンブルドンの決定を受けて抗議の声明を発表。ATPは「不公平な決定で、悪しき前例となる可能性がある。また、国籍による差別は、選手の参加はランキングのみに基づくとしたウィンブルドンと我々の合意にも抵触する」と指摘する。WTAも「アスリート個人が、その出身地や、自国の政府の行為によって罰せられたり妨害されたりするべきではない」として失望感を露わにした。
個別の選手からも今回の決定を批判する声が多く出る中、当事者であるルブレフも「僕は政治はよくわからないし、ニュースもフォローしていないし、学もないけれど」と前置きした上で、「これは完全な差別。そんなことをしても何も変わらない。それなら賞金を人道的支援のために寄付するという誓約書にサインをさせるなどしたほうが、少なくとも役に立つ」などと主張した。
出場禁止は“罰”ではない?「活躍が政治利用される」
今回の出場禁止を“罰”ととらえれば、間違いなくアンフェアだ。しかし、スポーツがプロパガンダ利用されることを危惧するなら、今のロシアの選手たちをウィンブルドンという世界的イベントに参加させるリスクは大きい。昨年、全米オープンでメドベージェフがグランドスラム初優勝を果たし、デビスカップで15年ぶりに頂点に立ったロシアでは、メドベージェフが言ったように国内のテニス人気が復活している。ウクライナの男子選手イリヤ・マルチェンコは、ロシアの選手が表立って戦争を肯定したりプーチン政権を支持したりしなくとも、彼らの活躍そのものが政治利用されると指摘する。
「彼らの沈黙は、この戦争を支持する国民をあおっているのと同じだ。影響力のあるロシアのアスリートたちが一体となってプーチン批判をすれば、政権に大きなダメージを与えることができるのに」
また、昨年引退した元世界ランク13位のアレクサンドル・ドルゴポロフは、SNSでルブレフを強く非難し、「ウクライナでロシアのしていることを自分は知らないふりをしている。プーチンと同じ、嘘つきで偽善者の言葉だ」と断じた。そして、イギリスとウィンブルドンに対してはこう謝意を示す。
「スポーツ界、ビジネス界、その他ありとあらゆる世界が皆同じスタンスをとるべきだ。ロシア人たちが自ら立ち上がり、自分たちの残酷なリーダーによる戦争犯罪と非道な行いを止めるまで。ウィンブルドンやイギリスは、ロシアの狂気を止めようと行動し、リーダーシップをとってくれた」
ウィンブルドン批判派が大勢を占める一方で、ラケットを銃に持ち替えて戦う者の言葉は重い。