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「びっくり、びっくり」世界選手権SP1位・坂本花織はなぜあれほど大喜びだった? “3アクセルなしで80点超え”を生んだ表現力 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2022/03/25 11:05

「びっくり、びっくり」世界選手権SP1位・坂本花織はなぜあれほど大喜びだった? “3アクセルなしで80点超え”を生んだ表現力<Number Web> photograph by Getty Images

自身初の80点超えとなる80.32点をマークし、SP首位発進となった坂本花織

“3アクセルなしで80点超え”の価値

 得点を見たあと、隣の中野園子コーチとの会話も、「びっくりしすぎてあまり覚えていないけれど『よかったね』『フリーに向けて頑張ろうね』と言われたと思います」とはっきり記憶していない。

 80点超えは90.45点で歴代1位のカミラ・ワリエワ(ロシア)を筆頭に、これまで6名いた。3位の紀平梨花を除けばすべてロシアの選手であり、そこには平昌五輪金メダルのアリーナ・ザギトワ、北京五輪金メダルのアンナ・シェルバコワらそうそうたる名前が並ぶ。その80点超えのリストに名を連ねることになったのだ。坂本の驚きと喜びが十分伝わってくるし、その意味も実感される。

 坂本の言葉にもあるように、ショートプログラムで高得点を挙げる原動力となってきたのはトリプルアクセルだ。トリプルアクセルなしで80点を超えたのは、2人のロシアの金メダリストしかいない。だから坂本は「難しいこと」と捉えてきた。

 坂本は北京五輪でも会心の演技を披露し、自己ベストを更新している。一方で大きな目標と見定めてきた大舞台での消耗も決して小さくはなかった。あれから1カ月あまり。それを上回る演技を見せることで再び自己ベストを更新して、坂本自身が1つの壁と考えていたレベルに自らを引き上げたのだ。

飛行機乗り継ぎ、バスでの長距離移動…身体的負担もあった

 しかも今大会は、ロシアのウクライナに対する侵攻の影響を受け、航空便はロシア上空を迂回する変更をよぎなくされている。坂本もオーストリアでの給油を経てドイツに到着。そこから便を乗り継ぎ、さらにバスの長距離移動を経て現地に到着した。

 オリンピックから、大会前の移動など、負担のあった過程を考えても、ここであれだけの演技ができたこと、その結果として自己ベストとなる得点を得た意義は大きい。

【次ページ】 「高難度のジャンプを入れない」というリスクに打ち勝った

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坂本花織
北京冬季五輪

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