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《現役引退》田中達也39歳は“自分を大ケガさせた相手”を決して責めなかった「体の限界までボールを追い掛けることができた僕は幸せ」
posted2021/12/27 17:02
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
ALBIREX NIIGATA
ワンダーボーイよりも火の玉ボーイのほうがしっくりくる。アクセルを踏みっ放しにして、守備も、空走りも厭わない。熱が伝わってくるほどの全力ファイト。167cmの小柄な体から発せられる大きな力でチームを奮い立たせる、それが田中達也である。
感動的なラストマッチだった。
浦和レッズで12年、アルビレックス新潟で9年、計21年間の現役キャリアに終止符を打つことが発表され、デンカビッグスワンで行なわれた町田ゼルビアとのJ2最終節においてキャプテンマークを巻き、先発のピッチに立った。チームの約束事に忠実に、やるべきことを愚直に。前半途中で交代を告げられると、両チームがつくった花道を通ってピッチを後にする。鳴りやまない拍手がリスペクトの大きさを示していた。
「火の玉」はチームメイトの心も燃やした。契約満了で退団する大本祐槻は試合後、サポーターへの挨拶で田中に対する感謝を述べている。多くのチームメイトを支える存在であったことは容易に想像できる。
39歳まで続けてこられた“全力ファイト”
そして何よりも己にベクトルを向けて自分の心をたきつけてきた人だ。
レッズ時代の'05年10月、スライディングタックルを受けて右足関節脱臼骨折の重傷を負った際、猛烈なバッシングにさらされた相手を擁護すべく「プロサッカー選手は常に全力でプレーし、最高のプレーを見せることに努めています。その上でのアクシデントは付き物」とのメッセージを発信した。随分と後に、このときの話を聞く機会があった。
あの一言はハッキリと覚えている。「今でも複雑なんです。僕は悪質なファウルだと思っていませんから」
複雑――。おそらくこういう意味だと受け取った。大ケガを忘れさせてしまうくらいの活躍ができていれば……その歯がゆさもモチベーションの材料に変えていた。
ケガが続いても、レッズを契約非更新となっても、そのたびに不死鳥いや火の鳥のごとく復活を遂げ、プレーに輝きを放った。だからこそ39歳まで全力ファイトを続けられた。
「体の限界までボールを追い掛けることができた僕は幸せ。ビッグスワンでオレンジのユニフォームを着て引退できることは僕の誇りです」
涙ながらの引退スピーチは熱く、誇らしく、清々しくもあった。