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《日本シリーズがモメた日》「だから巨人寄りだと言われるんだ!」“誤審”と仰木マジック、江夏の21球や「巨人はロッテより弱い」の裏側
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byKoji Asakura
posted2021/11/25 06:00
1996年、巨人との日本シリーズで審判団に猛抗議するオリックスの仰木彬監督
「巨人はロッテより弱い」は存在しない発言だった
<名言2>
フォアボールだけ出さなかったらね、打たれそうな気ぃしなかったんで、たいしたことなかったです。シーズンの方がよっぽどしんどかったですからね。相手も強いし……。
(加藤哲郎/Number838号 2013年10月3日発売)
◇解説◇
1989年の日本シリーズは、近鉄が3連勝したのち巨人が4連勝した。そのきっかけを作ったと言われるのが、第3戦の試合後にお立ち台に立った加藤哲郎の「巨人はロッテより弱い」とされる発言だった。
ただ実際には、そのような直接的な表現はなく、報道によって一人歩きした感が強い。当時チームメイトだった阿波野秀幸はこのように回顧している。
「言葉を丹念になぞれば、言ってないということになりますけど、まあ、そういうようなことは言ってますよ。(中略)あまりにも調子に乗ったことを言ってるんで、だんだん『相手もあることだし、その辺にしとけ』という気持ちになったのを覚えてます」
一方、抑えの切り札だった吉井理人は「確かに、みんなの中にも『言い過ぎたんちゃうか』『加藤さん、調子に乗ったな』みたいな雰囲気はありました。でも『シーズンでロッテと戦うより気楽やった』というのは、みんながそう感じてたことだと思いますよ。若気の至りなんです」とも語っている。
なお、89年の近鉄を率いたのは仰木彬監督。その7年後、巨人へのリベンジの機会がやってくる。
仰木監督「だから巨人寄りだと言われるんだ!」
<名言3>
誤りを素直に認めろ、だから巨人寄りだと言われるんだ。
(仰木彬/Number405号 1996年11月7日発売)
◇解説◇
1996年の日本シリーズはオリックスvs巨人となった。若き日のイチローと松井秀喜、現オリックス指導陣の中嶋聡や田口壮、巨人には斎藤雅樹・槙原寛己や落合博満など多士済々のメンバーが揃う中で、両指揮官の采配にも注目が集まった。
巨人は首位との最大11.5ゲーム差をひっくり返す「メークドラマ」を成し遂げた長嶋茂雄監督、そしてオリックスは仰木監督がどのような「仰木マジック」を使うかに焦点が集まった。
ふたを開けてみると、仰木はこのシリーズで正攻法の戦いで挑み、巨人相手にいきなり3連勝。第4戦こそ落としたものの、本拠地グリーンスタジアム神戸での胴上げ可能性を第5戦に残した。
“事件”はその第5戦、4回表1死一、三塁の場面で起こった。
巨人の井上真二が放ったセンター前に落ちるかどうかの際どいフライに、守備の名手・本西厚博が飛びつく。グラブで直接捕球したように見える微妙なプレーだったが、審判のジャッジはボールがグラウンドにバウンドしてから捕球したと見て「ヒット」に。
これに対して仰木は猛抗議。指揮官の号令を受けて選手たちはベンチに引き上げた。その場で仰木はビデオでプレーを確認し、審判団にも映像を見るように促したという。
しかし、その抗議の裏側にこそ「仰木マジック」の真髄があった。