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日本凱旋試合は〈IBF世界6位〉との“格差マッチ”…井上尚弥の統一戦がなかなか決まらない理由<ドネア戦から2年>
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byGetty Images
posted2021/11/02 11:05
WBSS決勝で拳を交わして以来、お互いをリスペクトする間柄となった井上尚弥とノニト・ドネア。彼らがリング上で再会する日はやってくるのか
これを受けて大橋会長は元WBAスーパー王者のルーシー・ウォーレン(米)、WBA2位のゲーリー・アントニオ・ラッセル(米)らにオファーを出したもののいずれも交渉は成立せず、ディパエンに落ち着いたという次第だ。
「とてもじゃないが勝てない」対戦を忌避するボクサーも
大橋秀行会長は記者会見で「日本でやる場合はコロナの問題もある。井上とやりたい、やりたくないはあるけど(いろいろな選手がいるけど)、すべてひっくるめてですね」とマッチメイクの難しさを語った。上記の選手がオファーを断った理由は定かではないが、「なかなか条件が合わなかった」(大橋会長)。時差の大きく異なる日本で試合をするリスク、試合までの準備期間、そもそも予定している試合があるかないかなど、選手にはさまざまな事情があり、こちらの思うようなマッチメイクができるとは限らない。
もちろんバンタム級の至宝とも言える井上に挑戦するのは世界中の選手にとって「栄誉」であり、もし勝利を手にすることができればリターンはとてつもなく大きい。たとえ負けても善戦すれば「あのモンスターと互角に戦った」と評価を高めるに違いない。ファイトマネーも他のチャンピオンに挑戦するよりも高額になるはず。ゆえに「ぜひモンスターに挑戦したい」という選手はたくさんいる。
一方で「とてもじゃないが勝てない」と考えて対戦を避けるパターンもある。この場合、他団体チャンピオンへの挑戦を模索するか、井上がタイトルを返上するのを待つという選択がある。もし、どうしても井上と試合をしなければならないなら破格のファイトマネーを要求する。そんな世界ランカーもいる。
リスクとリターンが見合わないのであれば、拳を交えたくない怪物クラスのチャンピオン。マッチメイクに苦慮するのは決して歓迎すべき状況ではないが、井上がアンタッチャブルな存在になりつつあることの裏返しだと言えるかもしれない。