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伝説的女性ボクサーに隠された“壮絶DVとコカイン”…「監視カメラだらけの家」25歳年上の夫コーチによる恐ろしすぎる洗脳生活とは
text by
辰巳JUNKTatsumi JUNK
photograph byGetty Images
posted2021/10/29 17:01
1990年代に活躍した「女性ボクシングのパイオニア」クリスティ・マーチン
「炭鉱夫の娘」人気は、ある種のシンデレラストーリーに支えられていた。1990年代当時、クリスティは、父親より年長である25歳年上のコーチ、ジム・マーチンと結婚していたのだ。このジムが重要視したのが「女性らしいイメージ」だった。興行のために男性客の人気を狙い、夫婦関係を押し出すかたちで、クリスティを「普通の主婦」のような「親しみやすい女の子」として演出したのである。これこそ「女らしくない」とされた他の女性選手との違いだった。
しかしながら、ドキュメンタリーを観ていくと、この夫婦はどこかおかしい。まず、取材に答えるクリスティは、結婚前からレズビアンだと明かしている。さらに、ジムの場合、インタビューを受けている場所が刑務所なのだ。
成功の裏に隠された“深すぎる闇”
『Untold: 勝利の拳とその代償』において、クリスティは、栄華の裏にあった苦しみや暴力について明かしていく。若き頃より同性愛者を自認していた彼女には、高校生の頃シェリーという恋人もいたが、異性愛を当然とする両親には「見て見ぬふり」をされていたという。ボクシングは報酬目当てで始めたものだが、本当の自分を押し殺す怒りを抱えていたからこそ続けられたとも語っている。コーチのジムにはセクシャリティについて話していたそうで、彼女いわく、二人の結婚はビジネス契約のようなものだったそうだ。
秘密を抱えながら世間が求める「女性らしいイメージ」で人気を博していったクリスティは、対戦相手を「女に見えない」と罵るパフォーマンスも行っていった。ジムに促されるかたちで同性愛差別的な口撃に出た際には、元恋人にセクシャリティを暴露される不安、それによってキャリアが終焉してしまう恐怖に苛まれたという。
2000年代に入っても選手活動は好調で、戦績44勝に届いていたが、私生活は正反対だった。仕事とプライベートの区切りがない夫婦関係のなか、ジムはクリスティを人形のようにコントロールしていったのだ。そして、妻が新たなコーチを求めたことで、事故に見せかけたドメスティック・バイオレンスが始まったのである。