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〈球速差40キロ〉名門・横浜も打てなかった智弁学園エース西村王雅の“魔球”…“甲子園投手だった父”への意地も?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/22 17:02
21日の横浜高校戦では、8回を無失点で抑えた智辯学園の西村王雅投手。最大の武器は、球速差40キロのスローカーブだ
「急速差40キロ」のスローカーブ
リズムよく投げ、ゲームを作る。
西村はいかなる試合でも、そんな投球をすることができる。素地は倉敷商との初戦で証明済みだ。
140キロに迫るストレートにスライダー、チェンジアップと変化球を効果的に織り交ぜ、相手打者に的を絞らせなかったが、この試合で存在感を示したのはスローカーブだった。
今年のセンバツが終わってから一時「封印」したが、夏に向け投球フォームを微調整する過程で再び持ち球に加えるようになったという。100キロに満たないこの“遅球”を、倉敷商戦の中盤以降に多投。8回を95球、6安打と相手打線を手玉に取った。
ストレートの最速は138キロ。スローカーブが98キロだとすれば、球速差は実に40キロ。この緩急だけでも打者はタイミングを取りづらいが、それだけではないと女房役のキャッチャー・植垣洸が教えてくれた。
「西村は高めの真っすぐの伸びが一番いい。それを活かすために、低めの変化球は絶対に必要になってくるんで」
スローカーブは、あくまでストレートを最大限に活かすためのスパイスだ。ただ、倉敷商戦のようにウイニングショットになる場合もあれば、そうでない試合もある。
横浜戦は後者だった。
植垣はキャッチャー目線で「悪いとは思わなかった」と証言するが、西村の手応えとしては「前回ほどよくなかった」そうだ。
だから、横浜戦では「見せ球」として活用した。西村が言う。
「序盤から変化球が打たれ気味だったんですけど、無駄な球にはしたくなかったんでファウルとかでカウントを稼げればと思いました」
123球中、スローカーブは17球のみ。そのほとんどが、初球など早いカウントで投じたものだ。これが、智弁学園バッテリーが導き出した、横浜戦でのプランだった。
相手選手、監督が感じた「変幻自在の変化球」
西村が「へばってきた」という8回、先頭の3番・金井慎之介の打席が、その組み立てが有効であると証明していたのかもしれない。
初球から2球連続でスローカーブを捉えられ、いずれもあわや本塁打という大ファウル。最終的にライト前に安打も許したが、打ったはずの金井は手応えがなさそうに嘆いていた。