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破産3回のベネツィアが19年ぶりにセリエA復帰 苦難のシーズンの予兆も“大物会長”は残留決定で運河へのダイブを公約
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/08/18 11:02
3度の破産を乗り越え、19年ぶりにセリエAに復帰したベネツィア。世界屈指の観光都市が再びサッカーの熱に包まれる
初めは2005年の夏、セリエBからCに落ち、経営危機と八百長疑惑が発覚したときだ。2009年の夏に起きた2度目の破産は、さらにひどかった。
やはり、経営難による給料未払いで勝点剥奪などの逆境に遭いながらも、地元出身のMFマッティア・コッラウトとFWパオロ・ポッジのベテラン2人が若手を鼓舞し、何とか3部残留に成功。クラブはイラン系の実業家に売却されたが、これがベネツィアにあるカジノ資本を狙った名義貸しによる詐欺事件であることが発覚してクラブ組織は消滅。破産宣告と1500万ユーロの負債だけが残った。
市長や連盟の後押しで後継クラブが誕生し、アマリーグから再出発したベネツィアには、2011年の冬にユーリ・コラブリンという新たなロシア人のパトロンが現れた。
元ソ連陸軍大佐の肩書を持つコラブリンはスポーツの政治利用をも厭わない実業家で、4年後のルーブル暴落により自己破産の危機に陥った。結局ベネツィアは新たな買収先を見つけられず、今世紀3度目の消滅を味わったのだ。
米国投資家グループの経営参画で健全化
2015年秋に元ボローニャFCのオーナー会長だったジョセフ・タコピーナ(現SPAL会長)が新オーナー会長となる形で米国投資家グループが経営に参画すると、ベネツィアを取り巻く空気は一気に健全化した。2016-17シーズンにフィリッポ・インザーギ監督を招聘し3部優勝を果たし、12年ぶりにセリエBへ復帰。
彼らは、ようやくサッカー界の陽の当たる場所へ戻ってきた。
「チーム状態はいいよ。プレシーズンキャンプも、オランダ遠征も思っていたよりずっとうまくいった。開幕が待ちきれない」
電話の向こうで、旧知のポッジの声が弾んでいる。知り合ったのは10年以上前、彼が引退してすぐ、故郷ベネツィアでサッカースクールを経営し始めたときに訪ねたのがきっかけである。
ポッジはその後、愛する古巣でTD(テクニカル・ディレクター)にあたる要職に就き、SD(スポーツ・ディレクター)となった古い戦友コッラウトとともにベネツィアの復活を支えてきた。
現役最後の年、ともに地元クラブの破産という憂き目をみた彼らは、ようやくつかんだ夢舞台からたやすく降りる気はないだろう。
世界に冠たる有名観光都市は、確かに注目も資金も集まりやすいに違いない。投資家も政治家もきっと同じことを考えている。
しかし、グラウンドで汗をかく選手や彼らを導くフロント、現場のスタッフたちには、地元ベネツィアの熱が込められている。