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「9回無死満塁から…3者連続三振の好リリーフ」夏の甲子園にも“クローザー時代”が訪れるか《日大山形vs.米子東》
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2021/08/10 18:00
夏の甲子園開幕戦、日大山形vs.米子東(4-1)。写真は6回裏日大山形2死二塁から生還し、4点目を挙げたシーン
エース斎藤堅史はコントロールを重視したピッチングで小気味が良かった。9回までに8安打を浴びたものの、リズムのいい投球で守備も守りやすかったはずだし、零封ペースの展開で9回も抑えてくれるはずという期待感はあった。荒木監督も「斎藤が8回まで0点で抑えていたので、交代のタイミングは難しかった」と語っている。
ところが、その9回に反撃を受けた。先頭から4連続単打で1点を失う。一つのアウトも取れない展開に、さすがに荒木監督が業を煮やし、クローザーを送り込む。
起用された滝口は140キロを超えるストレートが持ち味のパワーピッチャーだ。昨冬に右ひじを手術していたことから、投球開始は今年の3月に入ってから。そこから徐々に状態を上げていくが「離脱していた期間で、体幹と柔軟、走り込みをして、自分の体を見つめ直すいい時間だった」と振り返る。
滝口は9回無死満塁の場面、先頭の岩崎照英をストレートの見逃し三振に切って取ると勢いに乗った。この日2安打を放っていた次打者の薮本鉄平にはストレートを見せ球にして、外のスライダーで空振り三振。3番・舩木佑には、初球に自身最速の147キロを計測したストレートを3球続けた。その後のスライダーで2ボール2ストライクと追い込み、最後はアウトコースに力のこもったストレートを投げ込み空振り三振。見事に火を消したのだった。
クローザーともいうべき活躍に、滝口はこう言って笑顔を見せた。
「甲子園は投げやすい球場ですし、最速の147キロが出たのもあるんですけど、今日はどんどん押していけた。これから、どんどん強い高校も出てきますし、ピンチも迎えると思います。今日のような強気なピッチングができれば抑えられる。集中してピッチングしたい」
少数派だった“戦略的継投”
先にも書いたように、こうした継投が生まれる背景には高校野球の変化がある。先発投手が必ず完投するというケースが激減し、エースに頼らず、エース以外の投手を育成するという戦い方が増えてきている。
この日、敗れた米子東も、先発の舩木佑が4回3失点とゲームを作れないでいると、5回から薮本をマウンドに上げだ。薮本は6回に1点を失うものの、試合終盤の白熱した展開を生み出している。
「今後の試合では、滝口の早い段階の登板もある。どんな展開でも対応できるようにしている」
日大山形の荒木監督はそう語った。過去には佐賀北や駒大苫小牧など、戦略的継投を駆使して頂点に立ったケースもある。しかし、それらはあくまで少数派だった。
これからの時代はこの形がスタンダードになっていくのではないか。
高校野球にもクローザー時代が訪れる。
それを匂わせた2021年夏の開幕戦だった。