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「今も苦しんでいる人がいる…」ホークス和田毅“40歳で20年ぶり勝利”なのに…歯切れが悪かった事情
posted2021/04/21 17:25
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
KYODO
和田毅はその日の勝利の意味と価値を分かっていた。
4月14日、バファローズ戦。40歳左腕が投げ合ったのは22歳の剛腕、山本由伸だった。
「1点勝負になると思っていました。ならば、自分がゼロに抑えれば負けることはない」
今年2月に不惑を迎えたベテランは「もう若い時のようには……」としばしば口にするが、この日のピッチングはそれが嘘のような気迫に満ちていた。力で圧倒するストレート中心の配球で相手バッターを次々とねじ伏せていく。最速は146kmを計測した。得点圏に走者を背負ったのは2回表2アウトからの一度のみ。その場面も続く伏見寅威をオール直球勝負で3球三振に仕留めてあっさりと切り抜けてみせた。
3対0とリードして迎えた7回表の2アウトを難なく取ったところで、森山良二投手コーチがトレーナーと共にマウンドへ駆け寄ってきた。
「7回にちょっと足が攣りそうな感じがあって。この回は何とか投げきりたいと思ってこっそり脚を伸ばしていたつもりでしたが、そこを見られてしまいました。恥ずかしい。申し訳ないです」
「今も苦しんでいる人たちがいる…」
イニング途中の交代となったが、6回2/3を被安打4、奪三振5、与四球1の無失点は文句なしだ。試合は4対1でホークスが勝利。和田は今季3度目の先発にして初勝利を手にした。
40歳白星。ホークス球団の40歳以上勝利投手は2001年の長富浩志(当時40歳)以来20年ぶり3人目という記念の1勝となった。
「それだけ長く野球をやらせてもらっているということですかね。まあ、40歳にはなりましたが、もっともっと勝っていきたい」
照れ笑いを浮かべながら話す口調はちょっと歯切れが悪かった。
この日に勝つ。そこに大きな意味があることを、和田は強く胸に刻んでマウンドに上がっていた。
たいていの人間は年齢を重ねる中であることに気づく。自分が行う日々の努力や作業の成果が自分の喜びだけでなく、他人の笑顔や勇気を作り出すことがあるということを。
4月14日。
熊本地震が起きて丸5年の日が先発登板と重なった。