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「1週間500球」の球数制限問題…達(天理)と畔柳(中京大中京)の準決勝登板、“回避”させるべきでは?【センバツ】
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2021/03/30 17:03
天理のエース達孝太。これまでの3試合で161球、134球、164球という球数にも注目が集まっている
「継投も考えたのですが、宮崎商業さんは県大会の準決勝、決勝戦で6点差をひっくり返してきているチーム。どんな展開になっても変えるつもりはなかった」
一方、畔柳は1回戦・専大松戸戦では好投手・深沢鳳介との投げ合いを制して完封。6安打を浴びながらも12三振を奪う快投で前評判通りの実力を見せつけた。2回戦では常総学院を相手に15点快勝。6回終了時点で9−1としたが、8回表に2点を加えてようやく畔柳の交代を決断。試合後の質問は交代時期に及んだが、中京大中京・高橋源一郎監督は理由をこう説明している。
「常総学院さんは一度打線に火がついたら止められないチーム。もっと早い継投も考えたのですが、この試合に勝利することを目指してそう判断しました」
高橋監督はこれと同じ言葉を6−0で勝利した準々決勝の東海大菅生戦後にも口にしている。
相手打線の脅威を恐れて、エースの力に頼る。
達、畔柳はチームの絶対的エースだけに、指揮官たちの決断を鈍らせたのだろう。
悪いピッチングのままマウンドを降りていいのか?
達は準々決勝では今大会最多の164球を投じた。
初回から変化球がコントロールできず、ストレートもばらついていた。打線の奮起で10−3で勝利したものの、8回まで投げたことで投球数が嵩んでしまった。
達と中村監督の間にはこんなやりとりがあったと言う。
中村監督は言う。
「悪いピッチングのままマウンドを降りていいのかという話をして、本人は投げようと思ったようです。それで、本人の納得がいくように8回までは行かせました」
この言葉に象徴されるように、中村監督は選手の意思を最大限に尊重する指揮官だ。それはエース達に限ったことではなく、日頃の練習においても選手の意思を大事にする。最終的な練習メニューを決めるのは指導者たちだが、どこを目指すか、どれくらいの練習をしたいかは選手が決めるのだ。
達、畔柳は準決勝の登板回避が望ましい?
もっとも、中村監督に登板過多への危惧がないわけではない。
そもそも、高校時代に全国制覇を果たしているが、同級生だった当時のエース・本橋雅央さんは当時の登板がたたって、高校卒業後の野球人生を棒に振っている。右肘の痛みを押しながらの熱投は美談になったが、「そういう同級生の経験があるので、選手の怪我には人一倍、気にしているつもりだ」と語る。ただ、選手の意思の尊重との狭間でその決断が鈍っているのもまた紛れもない事実だった。