格闘技PRESSBACK NUMBER
大量の“砕け散ったガラス”が背中に刺さり… なぜ彼らは「血塗れ」になってまでデスマッチを戦うのか
posted2021/03/24 11:01
text by
原壮史Masashi Hara
photograph by
Masashi Hara
「修司、お前デスマッチってもんを忘れたようだな! 思い出せ。殴り合おうや!」
葛西純が石川修司に呼びかける。殴り合うといっても、拳と拳ではない。葛西が手にしているのは自身が持ち込んだカミソリ十字架ボードだ。それを割り、片方を石川に渡した。
15分が経過した試合では既に、竹串、有刺鉄線ボード、パイプ椅子、ラダー、ステープラー、テーブルが使用されていたが、どうやら、まだまだここから、という様子だった。
ADVERTISEMENT
互いに頭を殴り合い、葛西は自らの頭をカミソリに叩きつけて血塗れになってから観客に呼びかけた。
「全日本ファンのみなさん、ドン引きしないでください」
そう言って笑った葛西は、心底楽しそうだった。
蛍光灯が割れても、背中が真っ赤に染まっても
チケットはファンクラブ先行販売の時点でほぼ完売。この日会場に足を運んだのは、ほとんどが全日本のファンだった。この試合が全日本史上初のワンマッチ興行として開催されたのは「全日本プロレスはデスマッチ団体ではないので、他の選手はこの試合に絡んでほしくない」という石川の意向によるものだったが、全日本でデスマッチ、ということに対する拒否反応よりも、試合への期待感の方が大きかった。
しかし、いくら期待が大きくても、実際に目の前で血塗れになっていく様子を見たらどうだろうか。
その心配はなかった。
ドン引きしないでください、と葛西は言ったが、観客は既に魅了されていた。思わず漏れる笑いと大きな拍手が答えだった。葛西が続ける。
「これが、新しい“狂道“全日本プロレスのスタイルです」
そこからガラスボードが砕け散っても、蛍光灯が割れても、ガラス片で埋め尽くされたリングに叩きつけられた背中が真っ赤に染まっても、会場は決して引かなかった。
痛そう、よりも、なぜか美しさが上回っている不思議な空間がそこにはあった。