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髪切りマッチを越える戦いを…“赤いベルト”の女王・林下詩美vs上谷沙弥、予言された“驚くような結末”
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2021/02/28 11:03
ワールド・オブ・スターダム王者の林下詩美は3度目の王座防衛戦に臨む
「見ていて見苦しくないうちにやめたい」
「きれいに動けるうちはやりたい。見ていて見苦しくないうちにやめたい。昔は動けたのになあ、とは言われたくはない」
林下は女子プロレスをあまり見なかったが、紫雷イオは憧れだった。林下もジャーマン・スープレックスを使うが「イオさんはより力強い感じがある」と言い切る。投げっぱなしは豪快で確かにパワーを感じる。
昨年12月20日、大阪での渡辺桃との初防衛戦も感慨深いものになった。デビューして、タッグを組んでもらってタッグリーグも制した。そうした恩を試合で返していきたいという林下の願いはかなった。
今年1月17日の後楽園での舞華との2度目の防衛戦も王者らしい戦いだった。ハイジャック・バックブリーカーからの高角度のパワーボムは林下の必殺技として定着した。
「赤いベルトを巻くにふさわしい人になりたい。自分らしく、これから自分で作って行く。誰からも認められる王者になりたい。強いのは当たり前なので」
林下は理想の「赤いベルトの女王」像を描く。
そんな林下に上谷は挑戦者として「覚悟」をもって立ち向かう。
上谷「驚くような結末をお見せします」
「詩美さんがどう思っているか、なんかどうでもいい。追いつきたい、止めたい、そんなんではなく、私は越えたい。この1カ月間赤いベルトのことだけを考えてやって来た。私にはまだ出していない技がある。3月3日、日本武道館では未来のスターダム、この私がみなさんに驚くような結末をお見せします」(上谷)
「驚くような結末」なにかこの響きは、1982年10月、あの長州力が「噛ませ犬事件」のあと初めての藤波辰巳戦を前に「彼はびっくりしますよ」と言った時と重なった。
上谷のプロとしてのキャリアはわずか1年半、林下とのキャリアの差は1年。年齢は上谷が24歳で林下より2つ上だ。落ち着いている林下と感情的な上谷のリング上の交錯は女子プロレスの新時代を築くのにふさわしいような気がする。
林下は上谷の挑発に動じなかった。頬を張られてもそのまま静かだった。
林下は強い。林下は大家族の声援を受けて「赤いベルトの女王」として武道館のリングに立つ。「圧勝する」と宣言したが、簡単な試合にはならないかもしれない。それでも、林下は言う。
「林下、強かったな、と言われる試合がしたい。この赤いベルトの戦いこそが最高の戦いだということを見せます」