（5）「狂気の9番バッター」藤井健平（NTT西日本）

　もう1人の外野手には、私は「狂気」のようなものを感じている。そこが、この選手の何よりの魅力だ。

　藤井健平右翼手（NTT西日本・23歳・176cm78kg・左投左打・東海大）は社会人1年目の昨シーズン、ほとんど「9番」を打っていた。

　その「9番」のスイングに狂気を感じた。東海大当時、いや、その前の大阪桐蔭高当時から、なぜかクリーンアップでもないこの選手のスイングには一種「狂った感じ」があった。

　もちろん、猛烈なフルスイング。しかし決して、タイミングも合わせていない力任せの「無茶振り」じゃない。バットが捉えたら、どこまで飛んでいくのかわからないほどの一瞬のエネルギーに目を奪われていた。

　強肩も抜群。おそらく、今プロに入れても一級品。楽天・辰己涼介以上の強肩ではないか。走らせて刺しにいく強肩じゃない。走者の進塁意欲を消し去るほどの効果を持つ本物の「強肩」だ。

　前の打球にも、横の打球にも、当たり前のようにスライディングキャッチ、ダイビングキャッチが出来て、フェンス際にも強い。

　11月の都市対抗では、こんなシーンがあった。

　一塁走者として、投手のけん制球で手からベースに戻った藤井健平。ファーストミットで強く叩かれたのか、右手を振って痛がりながら、次の投球でサッとスタートをきって、まんまと二塁盗塁を成功させた。

　いい意味、「とんだ食わせ者」である。

　その都市対抗で、私は「NTT西日本・藤井健平」だけが見たくて、チームが勝ち進んだ3試合すべてを見に、東京ドームに通った。そして、そのたび、彼だけを見ていても、まったく退屈させない興味深い走・攻・守の連続を見せてくれた。

「外野手」が見たくて、球場に足を運ぶ。

　遠くで守っている外野手が注目されるなんて、そうしたことはめったになくて、もしそう言われたとしたら、最高に嬉しい誉め言葉になるはずだ。

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