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那須川天心に挑む志朗は一昨年の敗北から何をした? 「スタミナでは自分が勝っていることがわかった」
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph bySusumu Nagao
posted2021/01/17 11:02
志朗(左)は打倒・那須川天心に燃える。これを「人生を変える一戦」にできるだろうか
「天心君に勝てるのかという疑問がすごくあった」
もっともキックボクシングとムエタイは似て非なる競技。ともにパンチとキックを駆使して闘うところは重なり合うが、前者はヒジが禁止され首相撲からの攻撃には制限がある。判定基準も大きく異なる。キックはダメージ重視ながら、ムエタイはギャンブルとして成り立っているという側面があるだけにシーソーゲームの末に僅差で勝つような闘い方が好まれる傾向がある。
志朗にとって打倒天心を目指すためには、闘い方をシフトチェンジする必要があった。ただ、頭では理解していても、実際にそうすることは容易ではない。ムエタイの闘い方が染みついている者にとってはなおさらだろう。前回の対戦のとき、志朗は那須川のパンチに対して蹴りで対抗しようとする場面もあったが、スピードに差があるせいかうまく合わせることはできなかった。
その後、なぜ志朗がもう一度浮上できたかといえば、那須川戦の敗北を真摯に受け止め、「どうすれば自分は天心に勝てるのか」という根本的な問題を考え抜いたからだろう。トーナメントで優勝した直後、志朗は「負けてからすごく悩んだ」と打ち明けた。
「RISEルールで天心君に勝てるのかという疑問がすごくあった。まずはクリンチしてしまうクセを直さないといけなかったし」
自分には那須川よりスピードがないことを認めた
では、具体的にどうしたのか。まず志朗は、那須川より自分にはスピードがないということを素直に認めた。
「天心君の方が速かったら、自分はどんなイメージをすればいいのか。そういうことを考えながら、ずっとトレーニングしてきた成果がようやく出たという感じがします」
鈴木は27勝のうち実に16ものKO勝ちを飾っているハードパンチャーだが、志朗にとっては全て想定内だったという。
「鈴木戦までの3~4カ月でボクシングスキルは飛躍的に上がった。プロボクシングの日本王者や現役ランカーとやっても、日によっては勝ったりしていた。だから、パンチのスキルにはすごく自信がありました」
その言葉に偽りはない。第三者の目から見ても、この1年で志朗は蹴り主体の選手からパンチ主体でも闘える選手に成長していた。その証拠に7月19日には清志を力強く的確なワンツーで試合開始わずか26秒でKOしている。RISEでは年間最短KO記録となる一戦だった。