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ダニエル・バードと奇跡のカムバック。一度引退した35歳の投手はなぜ復活できたのか?
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2021/01/02 11:00
2020年7月17日にメジャー復帰を果たしたバード。7月25日のレンジャーズ戦に中継ぎとして登板し、7年ぶりの白星を挙げた
バードは、自身のハードな体験を選手たちに伝えようと努めた。スポーツ心理学に注目が集まっていた時期ということもあって、バードのコミュニケーション能力は、高く評価される。バード自身、「教えているうちに自分でも学んだ。他人への助言が、自分に対する助言になった」と、のちに述べている。
2019年、バードは選手たちに混じって、グラウンドでキャッチボールをはじめるようになった。不思議なことに、あれほど苦しめられたイップスが治っていた。それどころか、驚くほど威力のある球が、若い選手のグラヴに吸い込まれていく。「実戦じゃ無理さ」と照れ笑いしつつ、バードは確実な手ごたえを覚えていたようだ。
重圧からの解放がもたらした復活劇
その年のオフ、自宅の庭にネットを張った彼は、現役復帰に備えて本格的な投球練習を開始する。ノースキャロライナ州シャーロットの野球アカデミーで、ロッキーズのスカウトがバードの投げる球に眼をみはったのは、20年2月のオフシーズンだ。
かくて、バードは戻った。2020年の短縮シーズン(全60試合)、彼は23試合に登板し、24回3分の2を投げて4勝2敗6セーヴの堂々たる成績を残した。奪三振は27で与四球は10、与死球が3。ビデオを見ると、相変わらずやや荒れ球だが、球威は十分だ。なによりも、絶望を克服した人間に特有の、不思議に穏やかな顔つきが印象に残る。蘇ったバードはもちろん素晴らしいが、彼を迎え入れたロッキーズも立派だった。こんな復活劇があるから、アメリカ野球からは眼が離せない。