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日本一4連覇のホークスを倒したければ…メジャーリーガーではなく「編成のスーパースター」を獲得せよ!
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byGetty Images
posted2020/12/07 06:00
現地11月17日にシカゴ・カブスの「編成トップ」を退任したばかりのセオ・エプスタイン氏
”メジャーリーグ屈指の敏腕編成”が誕生するまで
12月29日に47歳になるエプスタイン氏は、ボストン・レッドソックス時代の2004年、同球団を86年ぶりのワールドシリーズ優勝に導き、カブス移籍後の2016年には同球団を108年ぶりの同シリーズ優勝に導いた「メジャーリーグ(MLB)屈指の球団幹部」であり、いわば「編成トップ」のスーパースターである。セイバーメトリクス(野球の統計分析学)の「教祖」と呼ばれているビル・ジェームズ氏の手法や、映画「マネーボール」で描かれたとおり、それを規範にした低予算球団アスレチックスのチーム構築法を資金力のあるレッドソックスやカブスに持ち込み、通算3度のメジャーリーグ制覇を達成した超敏腕である。
ただし、2002年に当時史上最年少の28歳で「編成トップ」の座について以来、数多くの後進のように分析部門を偏重しすぎる失敗を犯さず、「マネーボール」では考え方が保守的すぎると批判された「オールドスクール」のスカウトや野球界に生涯を捧げた関係者などとも上手く妥協点を見つけて成功したとの評判だ。就任当時、彼はボストンの地元メディアに囲まれてこう言っている。
「他人の話を聞く、自分の周りにいる素晴らしい人々から学ぶのは重要なことです。ある人(元選手)からは投球フォームについて学び、同じ日の午後には違う人(分析担当)から統計について学ぶといった具合に、各々の専門分野からアイディアを得る。まるで『野球専門の大学』に通って、特定の分野について研究するようなものです。毎日、心を開いて学んでいる限り、自分を向上させることが出来ます」
東部の名門イェール大学出身の「元高校球児」であるエプスタイン氏は、最初は心理学、やがて政治学から哲学と関心が揺れ動いたそうで、2年生の時には専攻を「アメリカン・スタディーズ(注:アメリカ文学や歴史、社会や文化についての学問)」に定め、実際にその学士号を取得している。在学中に大学新聞の編集者を務めた経験を「売り物」に、MLB球団で働くことを夢見て各球団に手紙を書きまくったそうで、オリオールズの広報業務の研修生(インターン)として球界に身を投じている。
その後、3年間のインターン生活で人脈を広げ、卒業後はパドレスに「正社員」として採用。レッドソックスに移ったのもオリオールズやパドレス時代に師事していたラリー・ルキーノ社長(当時)に引っ張られてのことである。
大事なのは、そこからだ。