マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
来秋ドラフト目玉「最速150キロ中学生」 高2になった“高知高の剛腕”のボールを受けてビックリした話
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byAFLO
posted2020/11/29 17:03
「最速150キロ中学生」と当時から全国的にも注目されている森木大智(高知高・2年)
「プロは、行くだけじゃ意味がない。長く活躍しないと……。そのためには、スピードも大事ですけど、同じぐらいコントロールと変化球が大事ですから。それが、高校でも、試合を作れる投手ってことにつながってきますから」
当面の課題は、“そこ”だと言う。
「この秋も、あと1試合、2試合ってところで勝ちきれなかった。勝ちたいって気持ちが前に出過ぎて、体まで前に突っ込んで、それを修正できないまま……」
ここ一番の場面で、もっと冷静になれないと……とも「この秋」を悔やんだ。
「明徳義塾には、絶対勝ちます!」
何がなんでも、あのマウンドで投げます!と森木大智が意気込む「甲子園」へのチャンスは、来年夏のただ一度。
「明徳義塾には、絶対勝ちます!いいバッターが何人もいますけど、相手がいいバッターのときほど、絶対抑えてやる!って思うんで、自分」
まあ、まあ、まあ……と、森木大智の大きな背中、さすってあげたい気分。いいバッターほど絶対抑えてやるって、そりゃあ、勇ましくていいけれど、いいバッターにはいくらか打たれても仕方ない、と考える方が“道理”にかなっているのでは。
たとえば、1番バッターとクリーンアップの4人には、合計6本まで打たれてもしょうがないか……その代わり、あとの5人はビシャッと抑えてやるぜ。そんなふうな「計算」をした上で実戦のマウンドに上がれることが、「冷静」になれていることなのではないか。
「そう言えば、いつの間にか、全員抑えてやろう!とか思ってるかもしれないですね。明徳とも、10回やったら、10回全部勝ってやる!って思ってるんで」
高校生の真っすぐな思いなら、これぐらいでちょうどいいのかもしれないが、たとえば、「夏」に勝つために、その前の「春」は負けてみる。森木大智、怖るるに足らず。そう思わせておいて、春は隠していた「本気」を夏にドカーンと叩きつけてみるとか……。
「さすがに、そこまでは……」
なんだか、17歳にたしなめられてしまった気がした。
4回繰り返した「なかなかよい結果が出ない中で……」
晩秋の夕暮れに、この目でストレートを捉えるのがいっぱい、いっぱいで、変化球は他の捕手の方にお願いしたが、森木大智、目下の持ち球は、スライダーにカットボールにタテのカーブ。
「まだ出来ていないこと、持っていないもの。そこが伸びしろだと考えて、これからも頑張ります!」
なかなかよい結果が出ない中で……。
この日のインタビューで、4回も繰り返したこのフレーズ。
同じ「野球」でも、中学時代の“結果”が良過ぎただけに、高校のここまでにもどかしさもひとしおだろう。
まだ出来ることより出来ないことの多い高校生がやり合う高校野球の「結果」なんて、たまたまの偶然だ。そう言って、現場の監督さんからひどく怒られたことがある。でも、自分では「一理ある」と今でも考えている。
「結果」は、たまたま出た時に喜べばよいことで、追いかけ過ぎると、不思議と逃げていく。先にうんと大きな目標を据えて、そのために、今日を、今を、懸命に生きよう。
ちょっと思い詰めたような剛腕の横顔を眺めながら、それが「前向き」っていうやつじゃないか…そんなことを思っていた。