ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
“幻の世界王者”尾川堅一が絶体絶命のピンチに! コロナ禍だから実現した日本人選手の激突がアツい
posted2020/10/06 11:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Naoki Fukuda
10月2日、東京・後楽園ホールで魅力的なカードが実現した。尾川堅一(帝拳)と西谷和宏(VADY)によるノンタイトル10回戦。尾川はスーパー・フェザー級世界ランキングでIBF3位を筆頭にWBA8位、WBO9位につける元日本同級王者で、西谷はIBF7位にして1階級上の元日本ライト級王者。スーパー・フェザー級で国内トップの実力を持つ2人が激突したのである。
試合はスタートから白熱。実績で上回る尾川がジャブ、ワンツーをビシビシと打ち込めば、体格で勝る西谷が尾川の打ち終わりに左フックをリターンするスリリングな立ち上がりとなった。強打が自慢の尾川が徐々にピッチを上げた3回、スイッチした西谷の左が決まって尾川がダウンした。
尾川は2017年12月、アメリカでIBF世界同級王座に就きながら、ドーピング検査で陽性反応が出て王座獲得が無効に。支えてくれた家族や支援者のためにも再び世界の舞台に立つと強く心に誓う“幻の世界王者”が絶体絶命のピンチに陥ったのだ。
スコア以上に白熱した試合に
立ち上がったものの足元がおぼつかない尾川はクリンチに出てダメージの回復を図る。金星まであとわずかの西谷は懸命に攻めるものの、尾川がフットワークを使ってなんとかピンチをしのいだ。続く4回、今度は尾川が攻勢。右ストレートで西谷に片膝をつかせてダウンをゲットした。
尾川は5回以降、右をうまくかぶせて試合を作り左ボディブローも決めて優勢をキープし続けた。一方の西谷も単発ながらジャブや左フックを尾川にヒットして食らいつく。気が抜けない展開が続き、勝負の行方が最後まで分からないまま試合終了。ジャッジ3者ともに97-91で尾川を支持したが、スコア以上に競った白熱した内容だった。
キャリア初のダウンを奪われながら勝利をもぎ取った尾川は「西谷選手のすごい気迫、執念が伝わってきた。でも僕も負けられないので最後は押し切れたことが良かった。(世界挑戦に)半歩くらいは進めたけど、アピールにはならなかった」と不本意な内容ながら、気持ちの勝利であったことを強調した。