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4月10日、特別な喝采を浴びた19歳。
松山英樹がマスターズで見せた非凡さ。
posted2020/04/10 20:00
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
AFLO
パッと目を覚ましてみたら、そこには誰もいない。
オーガスタナショナル・ゴルフクラブ(GC)のピンクのアザレアや、白いハナミズキはさぞや驚いていることだろう。どうして今年はこんなにしんと静まり返っているのかしらと。
2020年4月10日、本来ならマスターズの大会2日目が行われているはずだった。
ジョージア州の田舎町に世界中の人が集まり、各国の名手たちが美しさと裏腹の苛酷なコースに挑む。緑の絨毯、ガラスのグリーン。パトロンたちの興奮の叫び、落胆のため息――。そのすべてがすっぽりと抜け落ち、マグノリアレーンからクラブハウスへと続くワシントンロード沿いの門も今は固く閉ざされている。
震災から1カ月、日の丸を縫い付けて。
ゴルフ界最大の祭典、マスターズが本来醸し出すはずの祝祭ムード。ちょうど9年前の4月10日、2011年大会の最終日を思い出すと、その真っ只中にいた松山英樹の姿が浮かんでくる。
初出場だったこの年にベストアマに輝いた松山は、最終日に日本人で初めてマスターズの表彰式の場に立つこととなった。西日に照らされた晴れ舞台で、通訳を介して日本語でこうメッセージを伝えた。
「被災地はまだ大変ではありますが、マスターズでのプレーが少しでも希望と喜びを与えられたと思います。オーガスタの皆さんに感謝します」
最後に「Thank you.」と言うと、出席者から一斉にスタンディングオベーション。延々と続くかのような拍手の渦に、松山は驚いた様子で何度も何度もお辞儀を繰り返していた。
当時は東日本大震災からまだ1カ月。震災の爪痕は深く、日本はまだまだ先の見通せない状況でもあった。ゴルフをやっていていいのか。出場を思い悩んだ時には、メールやFAXで寄せられた激励のメッセージに目を通して気持ちを奮い立たせていたという。
初日のスタート前には東北地方で震度6強の大きな余震があり、大学のある仙台でも停電が起きた。それでも「逆に頑張ろうと思って集中できた」とウエアの右袖に日の丸を縫い付け、キャディーバッグには「まけるな日本」のバッジをつけて、オーガスタデビューを迎えたのである。