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ボスニア・ヘルツェゴビナ、紛争から25年。
分断した民族を繋ぐ“日本の運動会”。

posted2020/03/12 11:00

 
ボスニア・ヘルツェゴビナ、紛争から25年。分断した民族を繋ぐ“日本の運動会”。<Number Web> photograph by JICA

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

photograph by

JICA

辻康子

今回の冒険者
辻康子さんYasuko Tsuji

1975年、静岡県生まれ。日体大卒業後、体育教師として4年半勤務。'02年にJICA青年海外協力隊としてシリアに赴任する。ヨルダン事務所などを経て、'16年12月からボスニア・ヘルツェゴビナで活動。'19年に帰国し、現在はJICA中東欧州部にて勤務。

 民族紛争で分断された国を、スポーツによってつなぎ合わせる。

 熱い思いを胸に2016年、ボスニア・ヘルツェゴビナ(BiH)に渡った辻康子さんは、思いもよらない反応に言葉を失う。

 珍しいアジア人女性である彼女は、地元民にこう訊かれた。

「あなた、この国でなにしてるの?」

 JICAの専門家として辻さんがBiHに渡ったのは『スポーツ教育を通じた信頼醸成プロジェクト』を行うため。だが「スポーツで民族融和を……」と説明しても、なかなか意図が伝わらないのだ。

 無理もない。プロジェクトの拠点となったのは、紛争の最激戦地となったモスタル。

「紛争終結から20年経っていましたが、市民の感覚では“まだ20年”なんです。“ここでは民族融和なんて口にしちゃいけないよ”といわれ、ショックを受けました」

苦手な子は座って見ているだけ。

 プロジェクトの使命は、BiHの保健体育の共通コアカリキュラム(以下、CCC)の策定支援。セルビア系、クロアチア系、ボスニャク(イスラム教徒)が民族ごとに分かれて暮らす同国では、それぞれの民族が異なるカリキュラムの教育を受けていた。これでは国民の共通意識が根付くのは難しい。教育統合が喫緊の課題なのだ。

 辻さんは現地の保健体育の授業を視察して、またしても驚いた。

「授業には得意な子だけが参加して、苦手な子は座って見ているだけなのです」

 同国の授業は完全な能力主義。これを辻さんは変えようとした。

「運動能力だけでなく、協力や助け合い、リーダーシップなどを指導する日本の観点を、CCCに盛り込もうとしたのです」

 もっとも「保健体育を通じて社会性や協調性を」と訴えたところで、同国の人々にはピンとこない。そこで教育の専門家や先生を日本に招き、研修を行った。

 百聞は一見に如かず。今度はBiHの先生たちが驚くことになった。

「グループごとに分かれて、子どもたちが工夫して練習する。得意な子が苦手な子を教える。そうした光景に、彼らは目を見張っていました。BiHでは子どもたちだけで協力すること自体、珍しいですから」

【次ページ】 みんなでスポーツを楽しむ運動会。

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