“お試し”程度の感覚で呼んだ。

　今季開幕直前まで育成だった周東は今回の代表が初招集。当初は稲葉監督も“お試し”程度の感覚で呼んだ選手だった。

　ところがいまやその神足は、勝負どころの切り札として際立つ存在になっている。特にこの日のように膠着した状況の中では、最も効果的に流れを作り出せる武器が足なのである。

　だからこそ周東のこの神足は、五輪でも大いに使える武器になることが証明された。“お試し”選手が、この走りで有力な五輪代表候補となったわけである。

存在感を際立たせた甲斐野央。

　そしてもう1人、この苦しい戦いの中で存在感を際立たせたのが、同じく初招集の甲斐野央投手（ソフトバンク）だった。

「中継ぎがしっかり（追加）点を抑えてくれている。ああいう流れが終盤のチャンスを作っていると思います」

　稲葉監督が振り返ったように、オープニングラウンドからこの豪州戦まで、侍ジャパンの戦いのカギを握っているのはリリーフ陣の踏ん張りである。

　豪州戦までの4試合で7回以降の失点は台湾戦の9回に山本由伸投手（オリックス）が失った1点だけ。僅差の終盤を無失点で抑え込むことで、それが本大会の2度の逆転劇へとつながる道ともなっているのである。

「次の1点を与えないということが大事。そのことが2番手以降の投手も徹底できているのが大きいと思います」

　こう中継ぎ陣の奮闘を評価するのは建山義紀投手コーチだ。

　その中継ぎ陣の中でも特に東京五輪の有力候補として今大会でクローズアップされてきているのが、甲斐野なのである。

【次ページ】　最大の武器は切れ味鋭いフォーク。