球道雑記BACK NUMBER
ドラフト指名を諦めかけた日も……。
杉山晃基の「直球」は呼ばれるか。
posted2019/10/13 11:40
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
Ryotaro Nagata
「びっくりした」
ネット裏に陣取った1人のスカウトが、目を丸くしながらそう感想を漏らした。
東京新大学野球秋季リーグ開幕戦、場所は大田スタジアム。
今秋のドラフト候補である創価大学・杉山晃基の投球は、ストレートが高めに抜けるなど大荒れだった。結果は1回1安打無失点。だが、死球を2つも出したことで球場は一時騒然となった。
「ブルペンでは問題なかったんですけど、ちょっと力んでしまって……。今日のようなピッチングをしていたんじゃ(ドラフト上位指名は)厳しいかなと思います」
試合後、うな垂れるように反省の弁を口にした杉山。だが一方で、筆者はそんな彼が懐かしくもあり、どこか嬉しい気分にもなっていた。
粗削りなところも杉山の魅力。
彼の投球を初めて見たのは今から2年前、2017年の東京新大学野球秋季リーグのことである。場所も同じ大田スタジアム、この日も開幕戦だった。
このときの杉山は、今よりももっと荒れていた。
球速は向かい風を受けながら149キロを計測するも、試合前の投球練習ではいきなりボールがキャッチャーの構えたミットより遥か高くを抜けていき「ガシャーン」。そんなボールが来たかと思えば次は、キャッチャーの構えたミットに「ズバーン」と、とんでもない球威で収まる。いったいどちらの杉山が本物なのか。そのとき思った。
ただ、その粗削りなところが彼の魅力でもあった。
最速153キロ――。その前年に田中正義(ソフトバンク)が在籍していた同大学だから、多少、色眼鏡で見ていたのも認める。それでもこれは1年後、2年後と追いかけたい。楽しみな投手だからとその後も事あるごとに彼が投げる試合を見に球場へ向かった。