フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「ぶざまな姿は絶対見せたくない」
羽生結弦が目指す「完成形」と4A。
posted2019/09/18 15:00
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Akiko Tamura
羽生結弦が氷上に姿を現すと、会場内は悲鳴に近い歓声に包まれた。
9月12日からトロント郊外のオークビルで開催されたオータムクラシックで、羽生の新しいシーズンが開始。半年ぶりの試合とあって、観客も報道陣も、公式練習から彼のジャンプのひとつひとつ、細かい動作まで何ひとつ見逃すまいと目で追っている。
プログラムは、SP「秋によせて」、フリー「オリジン」とも昨シーズンのものをキープすることを、前日の囲み取材で告白していた。
怪我で中断された昨シーズン、羽生はこのプログラムを4試合でしか滑っていない。それで終わらせてしまうには、確かにあまりにも勿体無い作品だった。
「このプログラム自体を負けたままで終わらせられないなという気持ちがすごくあった。プルシェンコさんへのリスペクトの気持ちがすごくありますし。完成形として完成させた上で、本当に悔いなくこのプログラムを終えたい気持ちが一番強かったです」
「負けは死も同然」
「負けたままで」と本人が言ったのは、埼玉世界選手権で2位に終わったことだ。「負けは死も同然」とまで口にしたほど、羽生にとって悔しい結果だった。
試合に出るからにはあくまで勝利にこだわる羽生だが、順位だけが大事なのではない。
「せっかく気持ちが入ったプログラムなので、完成させておふたりに良いものを見せてあげたいという気持ちもあります」
おふたりとは、もちろん羽生が子供の頃から尊敬していたジョニー・ウィアーとエフゲニー・プルシェンコのことだ。
SPはウィアー、フリーはプルシェンコに対するオマージュとして作ったプログラムであることは、昨シーズン本人が何度も語っていた。