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大迫傑、競泳代表が集う“虎の穴”。
高地合宿地として躍進する東御市。
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph byHibiki Beppu
posted2019/09/11 11:40
長野県東御市にある「国内最高標高」の全天候型トラック。奥にはスキー場が。
単価が上がっても、トップ層の満足のために。
まずは合宿に来てくれる競技を絞り込んだ。
選んだのは、「陸上の長距離」と「競泳」という種目だ。
いまの東御の合宿施設の良さのひとつとして、施設全体のコンパクトさが挙げられる。トレーニングルームも、トラックもプールも、ギュッと1カ所に固まっているので移動の負担が少ない。そのメリットを活かすには、競技数は少ない方が良いと考えた。そしてそこから、2競技でどんな選手に需要があるのかをリサーチしたのだ。
長野県だけでなく、日本にはすでに有名な合宿地がたくさんある。一方で、それらの地域に足りない部分は何なのか。そこを埋められれば、後発の合宿地であっても新たに選手たちを呼び込めるのではないか――市の担当者たちは、そんな風に考えたという。
例えば陸上競技においては、その“足りない部分”は『実業団チームなど、日本のトップを目指す集団の満足度ではないか』ということだった。
既に人気の合宿地では、当然ながら全国から多くのチームがやってくる。そこにはトップ選手だけでなく、例えば小中学生のチームも含まれる。そういった他チームとの兼ね合いに気を削がれるというのは、実業団や大学トップチームのような日本の頂点を目指すチームにとっては、デメリットにもなりえる条件だと考えたのだ。
加えて、多くのチームを受け入れようとするとどうしても他の合宿地との「価格競争」にならざるをえない。だがそうすれば、現地の宿泊施設などに還元できる費用は減り、労力だけが上がってしまう。そこでたとえ単価が高くても来てくれるような環境と、それを活かしてトップ選手が集中して練習できる状況を作ったのだ。
例えば宿舎に併設されたトレーニング施設では、フリーウエイトからバイクを使った有酸素運動まで、あらゆる種類の補強トレーニングが実施出来る。また、合宿中に採取した血液を近隣の病院で分析し、すぐにフィードバックすることで練習や回復に活かすこともできる。そんなハイレベルな環境を用意した。
ターゲットを絞ったことが効果を発揮。
そんな戦略は、トップチームの選手の心を掴んでいった。都心からも車で2時間程度という利便性に加えて、高地を下ればすぐに使える平地のトラック施設もあり、日常生活を高地で行い高強度のトレーニングを平地で行う「リビングハイ―トレーニングロウ」スタイルの長期トレーニングの実施も可能。
そういった練習環境は、選手間の口コミで瞬く間に広まり、多くの代表クラスの選手が使ってくれるようになったのだという。
当初決めたターゲットに対して、いかに使いやすいかを考えぬいた結果が、現在の人気につながったのだ。