才色健美な挑戦者たちBACK NUMBER
柔道金メダリスト・田知本遥が伝えたいこと。
「勝つだけが全てじゃない」
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byShigeki Yamamoto
posted2019/08/14 11:00
リオに行く前から引退を決めていた。
周りの方々のおかげもあって、そのうちに勝つことがすべてではないんだなって思えるようになりました。もちろん1番を目指して戦ってはいるのですが、それが全てかと言ったら、人との出会いや、負けても優しく接してくださる人たちとの時間もすごく大事だなと思えた。その考えの転換が自分の中ではすごく大きかった。そこからはのびのびと、自分らしく柔道にも取り組めるようになって、結果にも繋がっていったんです。
リオオリンピックは代表には選ばれましたが、ロンドンの時とは違い、注目度は高くありませんでした。でもその状況も自分にだけ集中していられる、他の選手が注目をされているときに自分は粛々と準備ができるからラッキー!と思っていました。ただ一方で、私は勝つよ、ぐらいは思っていたかもしれません(笑)。
自分の中ではリオに行く前から、なんとなくこれが最後だろうなと引退を決めていました。周りからは、年齢的にもまだ東京を狙えるのになぜ引退するのかとすごく言われました。
多くの選手にとって地元開催のオリンピックは、一番いい大会にしたいと思うでしょうし、それはすごくわかるのですが、それが私にとってはリオ五輪だったんです。自分はここで花を咲かせたい、そう思ったのがリオだった。だから出発前からリオには柔道人生の全てを置いていきたいという気持ちがありました。
国を超えた選手同士の交流を伝えたい。
引退して、これからのことはまだ考えている最中です。児童クラブとか、教員、指導者という道も選択肢のひとつではあります。でも一貫して言えるのは、何か人の役に立ちたいということ。講演でも「苦しい時にどうしたらいいですか?」という質問がすごく多くて、そこでは私なりの経験を踏まえて、嘘偽りなく話をします。それしか私にはできないのですが、その中から響いてくれるものがあれば、それは私の中ですごく喜びにつながります。
私も苦しいときに言われた言葉にヒントをもらえて、前に進むことができた。苦しいとき、これをすれば絶対に大丈夫というのはないけれど、何かのヒントを与えることができればいいですよね。
もうひとつ自分が発信しなくてはと思っていることがあります。選手がメディアで取り上げられるのは、どうしても勝った負けたの部分になってしまう。けれども平昌オリンピックで小平奈緒選手と韓国の李相花選手のことが取り上げられたように、国を超えた選手同士の交流というのは私たち選手からすると結構あることなんです。私自身、リオで表彰台に上がったときの3位はエジンバラで一緒に練習をした選手でした。私の苦しい時期を知っている彼女だからこそ「遥が金を取ってくれて嬉しい」と言ってくれて。そういう魅力もスポーツにはあるんだよ、ということをもっと知ってもらいたい。だから、勝ち負けだけがすべてじゃないんだぞ!って。
田知本 遥Haruka Tachimoto
1990年8月3日、富山県生まれ。小学2年で柔道を始め、小杉高校、東海大学に進学。2012年ロンドン五輪女子70kg級では準々決勝で敗退し7位。4年後のリオ五輪では男女通じて唯一ノーシードから勝ち上がり、同階級の金メダルを獲得。惜しまれながらも2017年10月に現役を引退。現在は筑波大学で非常勤研究員としても活動中。
新しいナビゲーターに俳優の田辺誠一さんを迎え、番組デザインもリニューアル。アスリートの「美学」を10の質問で紐解き、そこから浮かび上がる“人生のヒント”と皆さんの「あした」をつなぎます。スポーツ総合誌「Number」も企画協力。
第68回:田知本遥(柔道)
8月16日(金) 22:00~22:24
柔道女子70kg級で活躍した田知本遥さん。五輪ではロンドンでの屈辱を経て、4年後のリオでノーシードから金メダルを獲得しました。2017年に現役を引退。筑波大学大学院を今年3月に卒業し、現在は筑波大学で非常勤研究員として活動しています。美味しいコーヒーを淹れるのがホッとする自分のオフ時間だという彼女の素顔にも密着します。
第69回:潮田玲子(バドミントン)
8月23日(金) 22:00~22:24
北京、ロンドンと2大会連続で五輪に出場した元バドミントン選手の潮田玲子さん。現役引退に合わせて2012年9月に結婚。ご主人が現役サッカー選手ということもあり、食事には力を入れています。今回は料理の腕前を披露してもらえることに。潮田さん流「ガパオライス」の作り方、必見です!