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「さっき、父が亡くなりました」
菊池雄星にMLB挑戦を勧め続けて。
posted2019/04/02 11:30
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
AFLO
シアトル・マリナーズのホームゲームの試合前練習にはちょっとした空き時間がある。
アーリーワークが終わる頃に、クラブハウスがオープン。監督の会見が始まると投手陣がアップを行う。そして、投手陣はそれが終わると引き上げるのだが、野手練習が始まるまでに時間があるのだ。
クラブハウスで過ごす人、食事をする人、メディア対応がある人それぞれだが、本拠地初登板の翌日の3月30日、菊池雄星は恒例の囲み取材を「今日はなしでお願いします」と断った。そしてクラブハウスに戻った後、その空き時間に再びグラウンドに姿を見せたのだった。
登板日の翌日に取材を受けないとなると、多くの記者が想像するのは、彼の身辺に何かがあったという可能性だ。ここ近年の日本人投手は怪我が多かったから、同じケースを想像した記者がいたかもしれない。
ただ、キャッチボールをしていたし、その後にはランニングへ向かった。
2年前に聞いた雄治さんの体調。
「さっき、父が亡くなりました」
菊池雄星の口から父・雄治さんの死去を聞かされたのは、ランニングに向かう前だった。そのあと、代理人と話し込んだ菊池はランニングに向かった。時折、空を見上げる彼は何を思っていたのだろうか――。
雄治さんの体調のことは、2年前の12月に知った。
菊池はオフシーズンになると、雄治さんの協力のもとで野球少年に向けたシンポジウムを開催している。野球教室や肩肘検診などがメインで、2017年には当時のチームメイトだった山川穂高(西武)らとトークショーも実施している。筆者も壇上へ上がらせてもらったのだが、その際に雄治さんの体調が良さそうに見えず菊池に尋ねてみたところ、「深刻な病」だと聞かされた。