野球善哉BACK NUMBER
「さっき、父が亡くなりました」
菊池雄星にMLB挑戦を勧め続けて。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byAFLO
posted2019/04/02 11:30
菊池雄星がメジャーへ渡るのを見届けるかのように、父・雄治さんは他界した。59歳だった。
雄星の性格は、父譲りだった。
筆者が初めて雄治さんと話をしたのは、2015年のゴールデンウィークだった。
盛岡から車に乗って夫婦でやってきた、菊池の登板日の夜に食事を一緒にさせていただいた。「家族でのせっかくの機会なのに、お邪魔して申し訳ありません」と伝えると、雄星の面影を存分に感じさせる笑顔で雄治さんはこう話してくれたのだった。
「いやいや、もうそんなの気にしないでください。今日は負けた日だから、本人も寂しいんだと思います。これからも、息子のことを見守ってやってください」
菊池の人当たりの良さや面倒見のいい性格は、雄治さん譲りなのだということをこの時に強く感じた。
国内でのメジャーデビュー戦。
アメリカでの本拠地デビュー戦。
雄治さんは間近で見ることは叶わなかったが、父の夢は、2019年3月、ついに果たされた。
帰国せずに頑張る――。
チームメイトの誰もグラウンドに出てきていない中で、ただひとりランニングをしていたのは、孤独に打ち勝っていこうとする決意表明だったのかもしれない。
その背中を雄治さんは、頼もしく、見守っているに違いない。