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<甲子園の監督力に学べ!>育てるチカラ。~教え子・小菅勲が語る木内幸男(取手二)~
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byTamon Matsuzono
posted2011/07/11 06:00
こすげいさお/1966年生まれ。常総学院では木内監督の下コーチを務める。現在、下妻二高野球部監督
<取手二:木内幸男×小菅勲('84年夏優勝 三塁手)>
'84年夏、決勝戦の相手は、断トツの優勝候補、2年生の桑田と清原が中心のPL学園だった。
取手二高の木内幸男は、試合前からベンチ内で木内節を全開にしていた。
「おまえら、スタンドをよーく見てみろ。ほら、あいつは焼きそばを食べてんだろ。あっちはカチ割りだ。お客さんなんか関係ねえ。野球なんか、ぜーんぜん、見てねえから」
当時の三塁手で、現在は下妻二高の監督を務める小菅勲が振り返る。
「緊張したら、空の色を見たり、雲の形を見るといいって言うでしょう。木内さんも、そうやって視野を広く持たせることで、選手を落ち着かせようとしていたんだと思います。甲子園での木内さんは、だいたいそんな感じで、いつも茶目っ気たっぷりでしたね」
最初の試合で、グラウンドを引き上げる際に騒いでしまい大会関係者に怒られたときも、2回戦でスタンドに手を振りまたしても関係者に注意を受けたときも、木内は選手たちに何も言わなかった。
「人柄が良くたってダメだって、よく言っていますからね。甲子園には甲子園の雰囲気があるから、それに乗ってけって。その感じを大事にしてくれたんでしょうね」
また、初戦に勝った翌日は、みんなで水着を持って須磨海岸に遊びに行った。
「その頃から、ここまできたら練習よりコンディションづくりのほうが大事だからって。まだオフなんて言葉もないころですからね。前代未聞だったと思いますよ」
だが、監督も監督なら、選手たちも選手たちだった。小菅たちは開会式の日、実はとんでもないことをしでかしていた。
「室内練習場にいったん集合するんですけど、そこに清原と桑田のスパイクがあったんです。そんで『偉そうにしやがって』って、マウンドをスパイクでほじくって、そこに清原のスパイクを埋めちゃった。しーらね、って。みんなでやりました。埋めたところ、こんもりしてたから清原も気づいたと思いますよ。うちの選手たちにも、この話、よくすんですよ。'04年に初めて甲子園に出たときも、ダルビッシュだ、涌井だっていたもんだから『おーおー』言ってるだけじゃダメなんだぞって。さすがにスパイク埋めろとまでは言いませんでしたけどね。ははははははは」
茨城の「悪童」たちは、その年、そんな雰囲気のままにPL学園という巨艦をも呑み込み、ついに茨城県勢として初となる全国制覇を成し遂げたのだ。
冗談めかしながらも、木内の言葉のなかには、いつも一定の真実が含まれている。
「学校の先生は嘘をつくのが商売だけど、俺は野球の監督だからいつでも本当のことを言うよ。バカにはバカって言う。どんなにがんばっても東大に行けないやつには、行けないってハッキリ言ったほうがそいつのためになるんだから」
小菅が高校1年生の夏を思い出す。
「木内さんに『おまえはプロには行けない。このチームのレギュラーにもなれない』って言われて、利根川沿いを泣きながら歩いた記憶がある。ああいう夢も希望もないセリフを16歳ぐらいのときに言われると頭にガーンとくる。俺はダメなやつなんだ……って。木内さんの言葉にショックを受けて辞めたやつ、いっぱいいましたから。最初、同学年は40人ぐらいいたんですけど、半分くらい辞めた。でも、木内さんが言いたいのは、要は、世の中は理不尽なものなんだっていうことなんだと思うんですよ。その現実に直面してから、どうするか。そこなんですよ」
木内のまわりを散策しても、いわゆる美談はひとつも落ちていない。出てくるものといえば、小菅同様、あんなにひどい言い方をされたという類の話ばかりだ。
だが、それでも選手たちが木内についていく理由を小菅はこう語る。
「美辞麗句は言わない人ですから。仲間を大事にしろとか、絶対に言わない。でも、野球はこうやれば勝てるんだとか、野球はこんなにおもしろいんだとか、そういうものは誰よりも持っている。そこで信頼関係ができている。この人についていけば、間違いないなって。野球だけですけど、そのぶんしっかりつながっている。自分が監督になってつくづく思うのは、木内さんみたいに、ここぞというとき、絶対に勝たせることのできる指導者じゃなきゃダメだなということですね」
木内はその後、常総学院に移り、優勝と準優勝をそれぞれ2度ずつ果たしている。
木内は語る。
「人をつくってから勝つより、勝って人をつくるほうが早いんだよ」
至言だ。
【木内の真髄。】
美辞麗句は言わない人です。でも、野球はこうやれば勝てるんだとか、そういうものは誰よりも持っている。