Number ExBACK NUMBER
ヒール横綱の元付け人たちが語る、
朝青龍は“気のいいあんちゃん”。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKyodo News
posted2019/02/18 08:00
2005年九州場所で7場所連続優勝を果たし、胴上げされてよろこぶ横綱・朝青龍。
輪島と朝青龍の贅沢な語らい。
やりたい放題のヒール横綱、であったのは間違いない。
だが一方でタニマチと飲みに行けば「今日はこいつ頑張って相撲に勝ったから小遣いやってくださいよ、社長」と若い衆に気を配り、引退後も元付け人のハワイでの結婚式には仕事の合間を縫って弾丸スケジュールでモンゴルからお祝いに駆けつけた。
そんな面倒見の良さと親しみやすさもあるのが朝青龍だった。
そんな性格だから同じ金色のまわしを締めた元横綱・輪島と酒を酌み交わした時もすぐに打ち解けたという。付け人の1人が懐かしそうに振り返る。
“黄金の左”の異名をとった輪島に対し、朝青龍も左の下手さえ取れば「どうやっても大丈夫」と絶対の自信を持っていた。もし夢の対戦が実現したとしたら相四つでの真っ向勝負だ。
「俺が現役なら朝青龍には負けないよ!」
「いやいや、兄弟子! そこはちょっと待ってください」
「いや、同じ左では俺は絶対に負けない」
横綱同士の和気あいあいとした意地の張り合いを見られたのも近くにいた人間だからこその贅沢だった。
貴乃花との差異は付け人との関係でも。
昇進してしばらく経った頃、付け人の1人は貴乃花に付いていた力士からこんなことを言われたという。
「10年ぐらい横綱に付いていても俺たちは名前でなんて呼んでもらえなかった。お前らのところはすごくフレンドリーだよな」
どちらがいい悪いの話ではないだろう。付け人への接し方ひとつとっても貴乃花は孤高であり、朝青龍は気のいいあんちゃんのような横綱だったということである。
四つ相撲がいれば押し相撲もいる。早熟がいれば晩成もいて、有言実行がいれば言葉少なに多くを語らぬ人もいる。取り口が違うように考え方も個性も千差万別。
一口に横綱といっても頂点を極めた72人にはそれぞれの綱の色がある。